大学生のD
しばらく期間が空いてしまったので、先にこれまでの経緯を簡単に説明したいと思う。
以前、「ボイスレコーダー」という雑話で、大学生のDが体験したことを紹介した。
内容としては、隠しマイクを使って日常の会話をボイスレコーダーで録音したところ、なぜか「聞こえる?」という質問をし続ける女の声が入っていたという内容だ。
これ自体は、特別なものじゃなくて、雑話の一つとして紹介したものだ。
その後、私は降霊術師を名乗る人の取材をすることになり、その際にボイスレコーダーで会話を録音していた。
ただ、降霊術師が実際に降霊術を行ったところで、なぜか急に帰ってしまい、その日の取材は失敗という形で終わった。
その後、録音した内容を確認した時、そこには女の声が入っていた。
最初は何を言っているのかわからなかったけど、音声ファイルをパソコンに取り込んだ後、編集ソフトを使いながら調べてみたところ、逆再生した時に「聞こえる?」という女の声が入っていることがわかった。
この辺りの話は、「降霊術師」や「逆再生」という雑話で詳しく書いているので、そちらを見てもらいたい。
私とDの体験したことは、いくつか共通点があったので、改めて詳しい話を聞きたいとDにお願いしてみた。
でも、Dは電話で話すのが苦手と言ってきたので、それなら近いうちに直接会って話そうということになった。
とはいえ、お互いに都合が合わなくて、ずるずると先延ばしになった結果、一ヶ月以上も過ぎてしまった。
もしかしたら、このままうやむやになるかもしれないという不安もあったけど、今回ようやく都合が合って、Dと話す機会を作ることができた。
Dから話を聞いて、わかったことを紹介する前に、私とDの出会いについても簡単に説明させてもらう。
まず、Dは二十歳の男性で、今は大学に通っている。
Dと出会ったのは、ある喫茶店だ。その喫茶店は、「本物の霊能力者」だけでなく、これまで何度も紹介した彼女と出会った喫茶店でもある。
当時、彼女と会うのに都合が良いという理由で、私は定期的に彼女がバイトしている喫茶店を訪れていた。
そうして通っているうちに他の店員とも話をする機会が増え、その中にDがいたというわけだ。
Dは怖い話といったものが苦手なのか、オカルト関係の話を自らすることはほとんどない。
ただ、彼女と年齢が近い――これは彼女がプライベートを一切話してくれないから未確認のことだけど、恐らく彼女とDは同い年のようで、彼女と話しているとDが会話に入ってくることがよくあった。
こうしたDの行動を見て、もしかしたらDは彼女に気があるのかなと思うこともあったけど、そこは大人の対応で深く詮索をしないようにした。
その後、彼女がバイトを辞めたけど、Dを含め他の店員とも仲良くなったことだし、私は時々この喫茶店を訪れていた。
私が雑話を始めた際、何かネタはないかと喫茶店の店員達に質問して、それで教えてもらった話も、いくつか雑話で紹介させてもらっている。
そんな中、Dの方から話があるといって聞かせてくれたのが、「ボイスレコーダー」という雑話で紹介したものだ。
その時、Dからこんな話をしてくるなんて珍しいなと思ったし、私が似た体験をしたというのも、何か思うところがあった。
大分前置きが長くなったけど、今回の話をするうえで、伝えておくべきことだと思ったので、こうして書かせてもらった。
ここからが本題で、以前は聞かなかったことを詳しくDから聞かせてもらった。
その中で特に私が聞きたかったことは、ボイスレコーダーに女の声が録音される前後で、他に何か不思議な体験をしていなかったかというものだ。これは言い方を変えれば、何か心当たりがないかということでもある。
すると、Dは若干話そうか迷った様子を見せつつ、話をしてくれた。
先述したとおり、これまでDはオカルト関係の話を自らすることがなかった。
それは、Dの兄がオカルト関係の仕事に就いていることが原因だったそうだ。
オカルトというのは、科学的に証明されていないわけで、時に詐欺じゃないかといった疑惑を向ける人が一定数いるものだ。かくいう私も同じようなもので、霊能力者などを名乗る人の取材をする際は、まず詐欺の被害にあわないようにしようと気を付けている人間だ。
ただ、Dの兄に関しては、まず両親が信用していなかったそうで、早い段階で勘当という形を取られてしまったそうだ。
それを目の当たりにして、D自身もオカルト関係の話に触れないようにしようと考えたらしい。
とはいえ、オカルトそのものを信じていないわけじゃないようで、何か自分に認識できない不思議なものを認識できる能力みたいなものもあるのだろうといった考えは、Dの中にあったようだ。
だから、勘当されてしまった兄のことを心配したし、霊感があると語る彼女のことも気にかけていたそうだ。
こういった話を私は初めて知ったので、軽く驚きつつ、どこか私と似た性格だとも感じた。
それから、Dは兄についてさらに詳しく教えてくれた。
ただ、それを聞いて、私はただただ驚きしかなかった。
というのも、私はDの兄について、既に間接的な話を聞いていた。
Dの兄は、今まさに私が調べている「名前を付けられた怪異」を追求した結果、亡くなってしまったオカルトライターだったのだ。
ただ、私の知っていることをそのまま伝えていいのかと悩み、私の話をするのは、とりあえず保留にした。
そして、少々ずるいと思いつつ、引き続きDの話を聞いた。
Dがこの話をした理由でもあるけど、ボイスレコーダーに女の声が録音される直前、Dは兄の遺品整理を行ったそうだ。
その中で、兄が残した数枚のメモ紙を見つけたそうだ。
Dは兄がどんな仕事をしていたかわからなかったものの、何か気になることがあり、メモを持ち帰ったそうだ。
思えば、その直後、ボイスレコーダーに女の声が録音されたそうだ。
この日、Dは私に見せようと、そのメモを持ってきてくれていた。
それは、私が探していたものだった。
今回は過去の雑話をいくつか紹介する形になって申し訳ないけど、また紹介させてもらう。
以前、「白い怪異」という雑話で、Dの兄が残した手帳について書かせてもらった。
この手帳は、いくつか破られたページがあり、詳細がわからない点が多くあった。
Dが持っているメモは、そうして破られた部分のようだった。
その詳細については、次回にでもまとめようと思っているので、今回は割愛させてもらう。
今回話したいのは、私が追及している「名前を付けられた怪異」に関する情報が、意外な形でまたわかったということだ。
それはまるで、一見何の繋がりもない点と点が線で繋がるような感覚だった。
私は最後まで悩んだけど、話さないわけにもいかないと思い、これまで調べてわかったことをDに話した。
Dの兄が残した手帳も見せ、破られた部分がどこなのかというのも確認できた。
Dとしては、兄がそんなことに巻き込まれていたことすら知らなかったわけで、ただ驚いている様子だった。
ちなみに、Dと話をしている時、少々不思議なことがあったので、そちらも紹介する。
今回、Dと会ったのは、Dがバイトしている喫茶店だ。
自分のバイト先に客として行くことにDは多少の抵抗があったようだけど、せっかくなら久しぶりに行きたいとも思っていたので、私から無理を言ってここにした形だ。
店内では落ち着いた雰囲気のBGMが流れていて、Dと話をしながらも耳に入っていた。
ただ、そのBGMが途中で途切れ途切れになり、次第にノイズが走り出した。
中途半端な時間だったこともあり、客は私とDだけで、あと店内にいるのは店員だけだ。
何かスピーカーの調子でも悪いのかとざわついた感じになったところで、ノイズの中に女の声が混じり始めた。
それは、私のボイスレコーダーに録音された、女の声と同じだった。
それも喋っている内容まで同じで、「聞こえる?」という質問を繰り返していた。
「すいません、一旦ブレーカーを落としてください!」
こういう時は、案外物理的に対応した方がいいものだ。
BGMを流しているシステムごと、一旦停止させてしまおうと思い、ブレーカーを落とすように指示を出した。
多少無茶な願いだったかなと思いつつ、すぐに対応してくれて、一瞬店内が暗くなったけど、BGMだけでなく女の声も止まった。
みんな、何があったのだろうかと驚いていたけど、とりあえず問題は解決したわけで、一安心といった様子だった。
ただ、Dは何かとんでもないことに自分も巻き込まれてしまうんじゃないかといった雰囲気で、青ざめていた。
怪異やオカルトを信じていない私ですら、不可解だと思えることが実際に起こったわけだし、Dの態度は自然だった。
むしろ、こんな状況なのに、何かコンピューターウイルスのようなものが原因による、機械の誤作動じゃないかって推測をまず考える私が異常なんだろう。
とにかく、Dはこれ以上かかわりたくないということで、兄が残したメモを私に託してくれた。
繰り返しになるけど、こちらの詳細は次回にでも紹介したいと思う。
現状、本物の霊能力者として紹介している彼女と、降霊術師を名乗る人物、どちらとも連絡が取れていない。
刑事をやっているKさんからの情報――こちらはKさんの単なる独り言になると思うけど、それもなかった。
だから、ここしばらくはほとんど進展がなかったけど、Dのおかげでまた様々なことがわかりそうだ。
周りで不可解なことが起こってもいるけど、その原因を探るためにも、より「名前を付けられた怪異」に近付いていきたいと思っている。
そんな雑話でした。




