世界線
今回は少しSFに近い話をしたいと思う。
皆さんは、「世界線」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
タイムスリップなどを扱った作品でよく出てくる単語で、何かしらかの方法で過去を改変した結果、現在の世界が変わった。この時、変わる前の世界と、変わった後の世界は、世界線が違うといった表現になる。
この世界線という言葉は、アニメ化もした某ゲームの影響で有名になったかと思う。
例えば、あの日あの瞬間にこうしていれば、今の生活は大きく変わっていただろうなんて考えを持つ人はたくさんいるだろう。
これを世界線という言葉を入れつつ言い換えると、別の世界線だったら、自分はどうなっていただろうかといった表現になる。
こういった形で、SFに限らず、日常会話みたいな形で言う人も一定数いるので、聞いたことがあるという人は多いかと思う。
怪異の中でも時として世界線の話は出てくる。
これは異世界へ行ったという話に似ているけど、周りの人や環境が変化した世界の記憶をなぜか持っていたり、あるいはそうした変化があった時に自分だけしか認識していなかったり、そうした不思議な体験をする人が時々いる。これは「気付いたらそこにいた」という雑話で紹介した話が近いかもしれない。
この時、別の世界線の記憶を持っているんじゃないかとか、別の世界線に行ってしまったんじゃないかといった解釈ができるわけだ。
そう解釈すると、そうした事象が起きた原因を考える際にも別の説が考えられるようになるわけで、見方を変えるという点ではいいかもしれない。
さて、今回そんな世界線の話題を出したのは、古い友人がある話をしていたことを思い出したからだ。
オカルトとは少し違うかもしれないけど、なかなか興味深い話だったので、紹介したいと思う。
当時、高校生だったYは、学校からの帰り道で妙な物を見つけた。
それは、塀に取り付けられたスイッチだ。
一見すると、電気をつけたり消したりするためのスイッチだけど、そんなものが塀に取り付けられているというのが不思議だった。
こんな誰でも触れるようなところにあるし、何かあればすぐ戻せばいいと考え、Yはそのスイッチを操作した。
すると、突然周りの景色が変わってしまった。
そこは、焼け野原といった感じだった。
建物は崩れ、焦げた瓦礫が辺り一面に転がっていた。
あまりにも異常な光景に、Yはむしろ驚くどころか冷静になってしまい、まるで戦争映画でも見ているようだなんて感じた。
その時、突然腕を誰かに引っ張られた。
「こっちに来い!」
見知らぬ男性に引っ張られる形で、Yはその場を離れた。
そのまま、地下のシェルターみたいなところへ連れて行かれ、そこで暮らす人々とYは会った。
そこには同級生や家族もいて、みんな突然いなくなったYを心配していた。
それから、何があったのかと確認して、Yは様々なことを理解した。
ここは、何かしらかの理由で日本が戦争に巻き込まれてしまった世界だった。
なぜ、そんなことになってしまったのか、Yは妙に冷静な感じで分析もできて、例のスイッチを操作したせいだと推測した。
それなら、またスイッチを操作すれば元に戻る可能性がある。そう考えたものの、スイッチを操作した瞬間、スイッチが取り付けられた塀ごと消えてしまったので、すぐにそれを試すことはできなかった。
結局、Yはただ生き抜くため、空襲などを避けつつ、しばらくそこで暮らすことになった。
その間、多くの人の世話になったり、反対に体の弱い人の世話をしたり、大変ではあるものの、みんなで助け合う生活そのものを苦に感じることはほとんどなかった。
そんなある日、外に出ていると、Yは残された壁に取り付けられた、あのスイッチを見つけた。
一瞬だけ、このままでもいいんじゃないかという気持ちも持ちつつ、それはダメだと思い直して、Yはスイッチを操作した。
目を開けると、そこは自宅のベッドの中だった。
いわゆる夢オチというもので、Yは拍子抜けしたものの、妙にリアルな感覚があったようで、もしもあそこで自分がスイッチを操作しなかったら、あのまま向こうの世界にい続けることになったんじゃないかと思ったそうだ。
もしかしたら、Yが体験したことは単なる夢じゃなくて、こことは別の世界線に迷い込んでしまったということなのかもしれない。
ちなみに、私も別の世界線があったらと考えることが時々ある。
それは、この話をしてくれたYが今も生きている世界線だ。
今から十年前、Yは恋人――私にとって親友だった人と一緒に亡くなってしまった。
Y達がなぜ亡くなったのかというのは、今もよくわかっていない。
知り合いの刑事として以前紹介したKさんも、捜査に協力したそうだけど、何があったのか一切教えてくれなかったし、私なりに調べても何もわからなかった。
当時、Yは色々と充実していたようで、これから頑張ろうといった感じだったし、私は今でもY達が亡くなったなんて信じられないでいる。
それこそ、ここが誤った世界線なんじゃないかと思えるほどだ。
だから、大切な友人達のご冥福を改めてお祈りしつつ、別の世界線で彼らが幸せに過ごしていることを願いたい。
そんな雑話でした。




