古着屋の服
ここ最近追っていた「名前を付けられた怪異」に関しては、また進展があった時に話すとして、今回から、またちょっとしたネタに戻りたいと思う。
皆さんは、古着屋で服を買ったことがあるだろうか。
私はどうも苦手というか、見知らぬ人の肌に触れていたものを自らの身に着けるということに抵抗があって、古着屋で服を買った経験はない。
ただ、古着屋をよく利用するという人は一定数いるようで、特に下北沢などは古着屋が多いと有名だ。
今回は、そんな古着屋でアルバイトをしているFの体験を紹介する。
服に限らず、中古の物を売る店は、単に物を客に売るだけでなく、客から物を買うこともある。だから、物をよく買っていってくれる常連客だけでなく、物をよく売ってくれる常連客というものもいる。
中には処分する予定の品を安価で手に入れて、それを売りに出すといった、業者のような人もいるのだろう。
Fのいる古着屋でもそうした人がいて、Fもよくその常連客に会うことがあったし、その際には簡単に話をすることもあった。
そんなある日、常連客がいつもどおり売ってきた服の中で、Fは気になる服があった。
それはタートルネックの黒い服で、丁度Fが欲しいと思っていたタイプの服だった。
状態も良く、新品同様といった感じで、サイズさえ合うなら店に並べることなく、自分が買ってしまいたいと思うほど、Fはその服が欲しくなった。
時々、他の店員さんが気に入った服を見つけた際、そのまま買ってしまうということをやっていたけど、Fはあまりそうしたことをしなくて、そもそも古着の服を買ったり着たりすることもあまりなかった。
なので、ここまで服が欲しくなるというのは、とても珍しいことだった。
Fは休憩時間を利用して、気になった服を試着してみた。
サイズはピッタリで、他の店員に見てもらっても似合っていると言われ、Fはこの服を買おうと心に決めた。
でも、次の瞬間、Fは異変を感じると、大きく咳き込みながら首に手を当てた。
他の店員に心配されつつ、Fは少し首回りがきついと伝えて、服を脱いだ。
一応、ちょっとした手直しならできると言われたものの、またの機会にすると言って、Fは服の購入を諦めた。
それから少しして、Fがいない時に例の服を買った客がいたと聞いたけど、特に未練などを持つこともなかった。
しばらくして、また大量の服を売りに例の常連客が来た際、Fは先日の服をどこで入手したか聞いてみた。
ただ、常連客は困った様子で、なかなか答えてくれなかった。
それでもFがしつこく質問すると、ようやく観念して答えてくれた。
ここで売りに出している服は、基本的に処分されそうだった服を安価で入手したものだそうだ。これは、Fも話に聞いていて知っていた。
処分の理由は、サイズが合わなくなったとか、新しい服を買ったとかで着なくなったというのが多いものの、時々それとは別の理由がある。
その一つで、Fが気になったのは、亡くなった人の服というものだ。
その服を着ていた人が亡くなり、着る人がいなくなってしまった服を処分するというのは、特に珍しいことじゃない。でも、そうして処分されようとしていた服を、この常連客は安価で買い取り、そしてこの古着屋で売っているというのだ。
そこで、Fは先日あったタートルネックの服も、亡くなった人が着ていた服じゃないかと質問した。
すると、常連客は少し驚いた様子を見せて、何でわかったのかと逆に質問してきた。
Fは答えていいか迷いつつ、ここまで答えてくれたならと、タートルネックの服を着た時にあったことを話した。
あの日、Fはタートルネックの服を着た時、首を絞めつけられるような感覚があった。
それは、首回りがきついとかじゃなく、人の手で首を絞めつけられるような感覚だった。それこそ、リアルな人の手の感触みたいなものをFは感じた。
それで、何だか怖くなり、Fはすぐに服を脱いだという話を常連客に伝えた。
常連客はFの話を聞いて、驚いた様子を見せたけど、その驚き方も不自然だった。
思ってもみなかったことを聞いて驚いているというより、起こりうると思っていたことが本当に起こってしまったといった反応だったのだ。
でも、そこについて常連客は何も話してくれなかった。
その後、常連客は問題の服を買い取って処分すると申し出てくれたけど、既に服が売れてしまったと伝えると、何とも微妙な顔を見せたそうだ。
ちなみに、この話をしてくれたFによると、後日、別の古着屋でとてもよく似た服を見つけたそうだ。
もしかしたら、問題の服はまた持ち主を離れ、今どこかの古着屋で売られているのかもしれない。
そんな雑話でした。




