自覚なき霊障
以前も軽く紹介したけど、オカルトライターの私にとって、先輩であり、師匠とも呼べる人は、エリさんだ。
そのエリさんと先日会い、色々と話をしてきた。
こうしたご時世だと、なかなか会うのにも抵抗があったけど、私としてはどうしても会って聞きたいことがあり、何とかお願いした形だ。
前回、これまでに書いた雑話の一つである「名前を付けられた怪異」を書いた記憶がないという話をした。
改めて読み返してみて、私の文章であることは間違いないように思うし、「口裂け女」や「人面犬」といった名前を付けられた怪異の危険性などは、それなりに認識しているのも確かだ。
ただ、霊感を持つ少女と、「それ」と表記された怪異にまつわる話だけ、ぽっかりと抜けていて、まったく記憶にないという状態だ。
こうした経験は私にとって初めてのもので、正直言って頭が混乱している。
それを少しでも解決したいと、エリさんに話を聞いてもらった。
エリさんは、こうした時に解決の糸口を見つけてくれる人だ。
そんな私の期待に応えるように、エリさんは自覚なき霊障といった話をしてくれた。
霊障というのは、霊や妖怪といった怪異の影響を何かしらか受けることを指す。
具体的には、体調を崩すといった、すぐ自覚できるものが多いけど、中には自覚できない変化といったものもあるらしい。
例えば、趣味嗜好が変わるとか、人との付き合いを避けたくなるとか、そういった変化がある人もいるそうだ。
ただ、こんなのはちょっとした心境の変化で説明できてしまうし、霊障と言われると違和感がある。
とはいえ、エリさんによると、怪異に誘導される形で、心境が変化していった人が実際にいるそうだ。
そして、私やエリさんがオカルトライターという仕事に就いたのも、そうした自覚なき霊障の一つではないかとのことだ
知らず知らずのうちに霊障を受け、わざわざ怪異に近付く、オカルトライターという職業を選ぶように誘導された。
そう解釈することもできるのではないかという意見だった。
正直なところ、私はこうした意見に納得できなかった。
それは表情に出ていたようで、エリさんに笑われてしまった。
そして、エリさんは以前話してくれた、失踪した後、遺体となって発見されたオカルトライターの話を改めてしてくれた。
こちらについては、雑話を載せ始めた時、「霊感とオカルトライター」というタイトルでも紹介している。
簡単に紹介すると、除霊を行える男性がオカルトライターとして情報を集めながら、多くの霊を除霊していたそうだけど、ある日突然行方不明になり、その後遺体で発見されたというものだ。
この話をしてくれた後、エリさんはオカルトライターの仕事を辞めてしまった。
その理由について、私は聞けていなかったけど、今回、エリさんはそれについても教えてくれた。
エリさんは知り合いのオカルトライターが亡くなった件について、個人的に調べていたそうだ。
その際、知り合いの刑事にも協力してもらい、最終的にある手帳が発見された。
それは、黒い手帳で、添えられた手紙から、エリさんに託されたものだということがわかった。
中身は、これまでの取材で書いたであろうメモが中心だったけど、その中でエリさんはある内容に注目した。
その内容というのは、ある少女が体験した怪異に関するものだ。
そこで、私はそれが何なのか、予想できてしまった。
そして、それは私の予想通りだった。
そこに書かれていたのは、「名前を付けられた怪異」に関するものだった。
エリさんは、そこで調査を止めたそうだ。
その理由は、エリさんも「名前を付けられた怪異」という話を何故か知っていると気付いたからだ。
それだけでなく、エリさんはそれをコラムとして載せようと、丁度まとめている最中だったのだ。
もっとも、そのコラムは未完成のまま、ボツにしたそうだ。
エリさんが言うには、「名前を付けられた怪異」という話を知り、それを人に広めるというのは、自覚なき霊障そのものではないかということだ。
エリさんは、そこで身の危険を感じて、オカルトライターの仕事を辞めた。
一方、私は今、エリさんと同じ位置まで来てしまった。
この話をエリさんがしてきたのは、エリさんと同じように私をここで止めるためのようだ。
このまま進めば、私にも命の危険があるかもしれない。
エリさんの話を聞いていれば、そんな結末は容易に想像できた。
でも、私は止まる気なんてなかった。
「エリさんは怪異やオカルトを信じていますか?」
急に私が質問したので、エリさんは少し困った様子を見せた後、答えてくれた。
「信じているわ」
それがエリさんの答えだ。
オカルトライターとして仕事をするなら、それが当然だろう。
でも、私の答えは違う。
「私は、怪異やオカルトを信じたいけど、信じられないんです。だから、ここで止まりたくないです」
これが私の答えだ。
そんな私の思いが伝わったのか、エリさんは困った様子でため息をついた後、カバンから、ある手帳を出した。
それは、先ほどの話に出てきた黒い手帳だ。
「怪異やオカルトを信じるようになったら、すぐにオカルトライターの仕事を辞めなさい。約束よ」
以前は霊感を持っていると自覚したら、辞めるように促している様子だった。
でも、今回は信じるようになったらに変わった。
それを受けて、私はまた決心した。
「わかりました。約束します」
「……この手帳をどうすればいいか、ずっと迷っていたの。でも、今日アッキーに呼ばれて、何となくこの手帳を持っていこうと思ったのよ。もしかしたら、これも自覚なき霊障なのかもしれないわね」
エリさんは迷っているような様子を見せつつ、手帳を私の方に差し出した。
「アッキーに託してもいいかしら?」
「はい! その手帳、私に任せてください!」
本来なら、恐怖や危険を感じるべきなんだろう。
でも、私の中にあるのは、ただ知りたいという強い好奇心だけだ。
そうして、私はエリさんから黒い手帳を託されることになった。
エリさんの言う通り、私は自覚なき霊障にあっていて、確実に怪異に近付いていっているのかもしれない。
でも、それならそれで構わない。
私にとっての怪異は、信じたいけど、信じられない。そういう存在だ。
それが今後どう変化していくか、楽しみでしょうがない。
やっぱり、私はこのオカルトライターという仕事が大好きで、ずっと続けたいと思っている。
怪異よりもこんな考えを持っている私自身の方を「怖い」なんて思う人がいたって構わない。
私は前へ進み続けようと思う。
そんな雑話でした。




