視界の端に映るもの
視界の端に誰かの姿が映ったと思い、すぐそちらに顔を向けたものの、そこには誰もいない。
そんな経験をしたことはないだろうか。
今回紹介するのは、そんな日常に潜む怪異の話だ。
高校生のCは、学校からの帰り道、いつも同じ場所で振り返っていた。
そこにあるのは、どこにでもあるような電信柱だ。
ただ、Cはこの電信柱の横を通り過ぎる時、視界の端に映る人影を何度も確認していた。
それは、電信柱の陰に潜んでいて、気付いた瞬間、ビックリさせられるものだった。
でも、誰かと思って顔を向けると、そこには誰もいなかった。
最初の頃は気のせいかと思っていたけど、同じことが何度もあり、次第にCはその人影を意識するようになった。
ただ、不思議なことに、電信柱の陰を意識しながら通り過ぎる時には、何も確認できない。いつも人影が現れるのは、無意識のままそこを通り過ぎる時だけだった。
そして、視界の端に映ったものを確認しようと、顔を向けても誰もいないのは毎回同じだ。
毎回、視界の端に映るだけだから、正確に確認できたわけではない。だから、塀の模様などが人影に見えているだけではないかとも考えた。
でも、そこにあるのは、何の変哲もない電信柱と塀で、人影に見えそうなものは一切なかった。
それからしばらくの間、Cはそこを通る度に、視界の端に映るものを確認するため、振り返っていた。
当然、何度同じことをしても、そこに誰かがいるということは一度もなかった。
それでも、条件反射のような形で、Cは振り返るのがある意味、習慣のようになってしまっていた。
そんなある日のことだ。
その日も学校からの帰り道、Cは電信柱の横を通り過ぎる際に、視界の端に映る人影に気付いた。
でも、この日は何とか無視して、そのまま歩き続けた。
そうして少し歩き、交差点に差し掛かるところで、
「ねえ」
という呼びかけが背後から聞こえた。
何だろうかと振り返ってみたものの、そこには誰もいなかった。
その直後、クラクションが鳴り響き、Cは思わず尻もちをついてしまった。
そして、Cのすぐ目の前で車が止まった。
ここは、細い道にもかかわらず、スピードを出す車が多く、交差点を渡る時はよく注意しないといけない。
ただ、この時は誰のものかわからない声に気を取られたせいで、何も考えずに飛び出してしまった。
少しタイミングが違っていたら、命の危険すらあっただろう。
幸い怪我はなかったものの、車の運転手は謝るどころか、怒った様子ですぐに行ってしまった。
それから、Cは辺りを見回した。そして、問題の電信柱を見た時、あるものを見つけた。
それは、電信柱の陰に置かれた花束だった。花束はボロボロで、大分前からここにあったようだ。
今までここを何度も通り、何度も振り返っては、確認した。
それにもかかわらず、Cはその存在に気付かなかった。
花束があるということは、ここで事故があり、亡くなった人がいるのかもしれない。
そうだとしたら、これまで視界の端に映った人影や、さっきの声は、その人によるものかもしれない。
自分に気付いてほしくて、ああいった不思議なことを起こしたのだろう。
そんなことをCは感じて、両手を合わせると目を閉じた。
しばらくそうしてから、Cは目を開けると、そこを離れることにした。
そうして、電信柱に背を向けた瞬間、
「ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ……」
さっきの声が、狂ったように繰り返し呼び掛けてきた。
Cは声から逃れようと交差点に飛び出した。
そうして、どうなったかを話すのは蛇足だろう。
怪異というものは、人の死角に現れることが多いなんて話がある。
ただ、そうして死角にいる怪異が、視界の端に入り込んでしまうことも時々あるようだ。
また、怪異の中には、自分の存在を認識してくれた人に憑りつくものがいる。
Cは自覚していなかったものの、そこを通る度に怪異がいる場所を見てしまった結果、怪異は自分の存在を認識してくれたと勘違いした。
そうして、Cを道ずれにしようとした、あるいは自分達の方へ引きずり込もうとしたのだろう。
もし、あなたの視界の端に何かが映ったとしても、確認しないことをおすすめする。
そんな雑話でした。




