嘘が作り出した怪異
嘘から出た実ということわざがある。このことわざは、嘘のつもりだったものが、はからずも真実になるという意味だそうだ。
具体的な例としては、個人的に好きなアーティストを宣伝したくて、「今後有名になると注目されているアーティストなんだ」と周りの人に嘘をついた。それを聞いた人が、そのアーティストを好きになり、他の人にまた宣伝する。そうしたことが広がった結果、そのアーティストは本当に有名になった。
そんなことを指して、嘘から出た実ということわざが使われるらしい。
さて、今回は私個人が考えている、多くの怪異の正体について話したいと思う。
怪異の正体について、科学的な根拠はないものの、生物が持つ思いや念といったものが強く存在した時、それが怪異になるといった意見がある。
それを踏まえて考えると、多くの人がその存在を信じることで、本来は存在しないはずの嘘でも、現実の怪異として存在できてしまうのではないだろうか。
実際、元々は単なる嘘だったにもかかわらず、誰かが噂を広め、その存在を信じた人達によって、社会問題にまで発展した怪異が存在する。
これまで、何度かその名を出しているけど、「口裂け女」という怪異がまさにそれだ。
知っている人もいると思うけど、まずは改めて口裂け女の紹介をしておく。
学校からの帰り道、大きなマスクをつけた女が道端に立っている。
どこか不気味だなと思いつつ、横を通り過ぎようとすると、女はある質問をしてくる。
「私、キレイ?」
この質問に対して、「キレイ」と答えると、女は「これでも?」と言いながらマスクを取り、裂けた口を見せる。
そして、包丁やハサミを振りかざして追いかけてくるというものだ。
なお、質問に対して、「キレイじゃない」といった答えを返しても、女は怒って、襲いかかってくる。
どちらで答えても不正解という、なかなか意地悪な怪異だ。
でも、この怪異には様々な対処法があり、「ポマード」という言葉を叫べば怯むので、その間に逃げればいいというもの。なぜかべっこう飴が好きなようで、それをあげれば夢中になって食べてくれるから、その間に逃げればいいというもの。
こうした話が広がり、当時の小学生などはポケットにべっこう飴を入れていたそうだ。
さて、この口裂け女については、全国的に広まった怪異ということもあり、様々な検証が行われた。
とはいえ、その検証というのは、どのように噂が広がったかという部分に関するものがほとんどだ。
これには様々な諸説があるものの、岐阜県を中心に広がったという説が有力だそうだ。
子供が夜道に出るのを防ぐために、夜道に口裂け女が現れるなんて嘘を、親が子供に伝えるというのがそこで行われていたそうだ。
もしかしたら、親同士で世間話をしている時、口裂け女の話をしたら、子供の帰りが早くなったなんて話が出たのかもしれない。それを聞いた他の親も子供に話をして、少しすれば子供達の間でも、この話が話題になったのだろう。
そうして、口裂け女というものが周知されるに連れ、確実に現実味を増していった。
地域によっては集団下校を実施するところもあった。そうした対策をしているという点も、噂を信じさせ、さらに広げる要因になっただろう。
この時点で、口裂け女という怪異は、まだ単なる嘘だったと私は考えている。
ただ、こうして様々な人に伝わり、その存在を信じる人も多くなったことで、現実に存在する怪異になってしまったようだ。
口裂け女の目撃者は、子供だけでなく大人もいる。その人達、全員が嘘をついていると決め付けるのは、少々乱暴だ。
私自身、都市伝説に関する取材をした際、過去に口裂け女を見たという人に話を聞いたことがある。
人の嘘を見抜く技術について、私はまだまだといったところだけど、その話が嘘だとは到底思えなかった。
もしかしたら、怪異の多くは嘘が作り出したものなのかもしれない。私はそんな考えを持っている。
誰かが嘘をつき、それを信じた人が他の誰かに伝え、それこそウイルスのように広がっていく。
そうして、多くの人が「それ」を認識して、「それ」が現実に存在するかもしれないと思った時、「それ」は怪異になってしまうのかもしれない。
そんな雑話でした。




