放置されたSNSアカウント
SNSは様々な種類があり、利用者も多い。皆さんの中にも利用している人はたくさんいるだろう。
ただ、中にはしばらく更新のない、放置されたアカウントも多く存在する。
まあ、大体は忙しかったり、興味がなくなったりといった理由でそうなってしまうのだろうけど、中には他の理由で放置されているものもある。
今回は、そんな放置されたSNSアカウントにまつわる話を紹介する。
女子大生のAは、SNSを頻繁に利用していた。
それこそ日記のように使っていて、大学でのことや遊びに行ったことなどを自撮り写真と一緒に投稿していた。
Aは希望の大学に入り、サークルも楽しんでいるし、友人や恋人もいるといった、充実した大学生活を送っていた。
そうした毎日を一人でも多くの人に伝えたいと、SNSの更新を頻繁にしていた。
そんなある日、SNSを通して高校時代の友人Tから連絡があった。
Tとは高校卒業以来連絡を取っていなくて、考えてみれば一年以上も連絡を取っていなかった。
Aと違って、TはSNSの更新をまったくしない人だ。なので、AからTの近況を色々聞く形で何度かメッセージのやり取りをした。
すると、何なら今から会わないかといった話になった。
今、大学では文化祭の準備をしていて、それなりに忙しくもあったけど、せっかくの機会と思い、Aは快くその提案を受け入れた。
待ち合わせ場所は、学校帰りによくAとTが寄っていた公園だった。
懐かしい友人と懐かしい場所で再開する。何だかAはノスタルジーを感じつつ、その公園に向かった。
Aが着いた時、既にTは公園で待っていた。
「久しぶり!」
「うん、久しぶりだね」
「T、全然変わらないね!」
Tが以前とまったく変わっていなくて、Aは尚更懐かしいと感じた。
「どこ行こうかね?」
「どこでもいいよ」
「それなら、少しここで話そうか!」
AとTは近くのベンチに座ると、近況報告を始めた。とはいえ、ほとんどAが話してばかりで、Tは黙って話を聞いているだけだった。
AはSNSに様々な投稿をしているけど、実際に話したいことは、そこに載せ切れないほどたくさんあった。それを話すチャンスとばかりに、Aはずっと自分の話をし続けた。
それは、ただただ楽しいだけの大学生活についてだ。
一通り話したことで少し落ち着き、やっとAはTが黙ってばかりなことに気付いた。
「私の話ばっかでごめん! Tは大学でどうなの?」
「別に何もないよ」
「何もないってことはないでしょ? 友達の話とか……あ、好きな人とかできた?」
「私の好きな人はM君だよ」
Mというのは、同じ高校に通っていた男子で、Aの彼氏だ。
「え?」
「Aちゃんは私の欲しかったものを何でも持ってる。私の好きだったM君と恋人になって、私の行きたかった大学に行って、私の入りたかったサークルに入って、私の欲しかった仲間に囲まれて……」
「待って! T、どうしたの?」
Tがこんなことを言うなんて思ってもみなくて、Aはただただ怖くなった。
「Aちゃんが羨ましい。私は何もうまくいかないのに、Aちゃんはいつも楽しそうな毎日を報告してる。それが嫌で私は……」
突然、Tは黙ってしまった。Aはどうしていいかわからず、しばらくの間、そこで呆然としてしまった。
「大丈夫ですか?」
そんな声をかけられ、Aが振り返ると見知らぬ男性がいた。
「良かった、大丈夫そうですね。一人でぼーっとしていたので、心配になりました」
「え?」
AがTの方に視線を戻すと、そこにTの姿はなかった。
「あれ?」
Aが呆然としている間に、Tはどこかへ行ってしまったのだろうかと思いつつ、それにしては不自然だった。
Aはスマホを取り出し、Tに電話してみた。でも、その番号は使われていないといったアナウンスが返ってくるだけだった。
考えてみれば、普通は電話やメールでやり取りするのに、わざわざSNSのメッセージを使って連絡が来たというのもおかしい。色々と腑に落ちないことが多く、AはそのままTの家へ行くことにした。
Tの家は公園から比較的近い位置にあって、何度かAは遊びに行ったこともある。
先ほどのTの態度を見ているから怖いという気持ちもありつつ、それでも帰ろうという気にはなれなかった。
AがTの家に着き、チャイムを鳴らすと、出てきたのはTの母親だった。
「あら、Aちゃん? 久しぶりね」
「はい、あの……」
「もしかして、Tのことを知って会いに来てくれたの? どうぞ、上がって」
何だか会話が噛み合っていない気がしつつ、断る理由もなかったので、Aは言われるまま家に上がった。
ただ、案内されたのは、仏壇だった。
Aは意味がわからず、立ち尽くしてしまった。
「Aちゃん?」
「あの、私さっきTから連絡があって、そこの公園で会っていたんです。それで、急にTがいなくなっちゃって……」
混乱したまま、Aは今あったことを簡単に伝えた。すると、Tの母親は穏やかな表情になった。
それから、AはこれまでのことをTの母親から聞いた。
Tは大学でなかなか友人ができず、そのことを悩んでいたそうだ。
元々、Aと同じ大学を目指していたのに、Tは落ちてしまって、そのことがずっとショックだったようだ。
そして、一年前の今日、自ら命を絶ってしまったとのことだ。
遺書などは残されておらず、突発的なものだったようだけど、おそらく大学での悩みに耐えられなかったのだろうとTの母親は話した。
「でも、命日にAちゃんと会うなんて、あの子らしいわね。あの子とはどんな話をしたの?」
「……ただ、久しぶりって、昔話をしただけです」
Aは正直に伝えることができず、そう返しただけだった。
後日、AはSNSをすべてやめた。
Tが亡くなった日、Aは大学で文化祭があり、サークルの仲間や恋人と一緒に撮った写真をたくさんSNSに投稿した。
もしかしたら、TはAの投稿を見て劣等感のようなものを持ち、それがきっかけで自ら命を絶ってしまったのではないか。そのことを伝えるため、あの日Aと会ったのではないか。そう考えると、SNSをやる気になれなかった。
それに、またTから連絡があったらどうしようという不安もあり、Aはアカウントを消したそうだ。
近しい人が亡くなった後、その人が生きていた頃と同じ状態のままにするのは、その人の魂が成仏するのを妨げる可能性があるらしい。
例えば、その人が使っていた部屋を当時のまま残すとか、食事の時にその人の分まで料理をテーブルに並べるとか、そうしたことはなるべく避けた方がいいとのことだ。
でも、インターネット上に残されたSNSアカウントとなると、何もできないまま放置するケースがほとんどだ。
実際、事故や病気で既に亡くなってしまった人のアカウントが、生前の状態のままでいくつも残っている。それはまるでその人の死を否定しているかのようだし、これが原因で何かしらかの怪異が生まれる可能性は十分ありそうだ。
SNSへの投稿などは、多くの人――それこそ世界中の人が受け取れる。そこには、生きた人だけでなく、怪異と呼ばれる存在も多くいるのかもしれない。
インターネットは世界と繋がっているなんて言葉があるけど、考え方によって、それは怖い言葉だと私は思う。
そんな雑話でした。




