火の玉
今回は、近所に住む女性――Tさんが、約50年前に体験した話を紹介する。
当時、Tさんの暮らしていた場所を一言で表せば、いわゆる田舎だ。
畑が多く、街灯も少ないから、夜になれば辺りは真っ暗になる。そんな場所だった。
当時のTさんは中学生で、友人のYさんと一緒に塾へ通っていた。
TさんとYさんは成績が良く、同学年で習う範囲については既に予習が終わっていた。なので、二人は特例として、上級生の人達と一緒に授業を受けていた。
ただ、それだとどうしても帰るのが遅い時間になってしまうから、Tさんの母親とYさんの母親が交代で迎えに来てくれることになっていた。
その夜は当初、Tさんの母親が迎えに来る予定だった。でも、Tさんの母親の都合が悪く、代わりにYさんの母親が迎えに来ることになっていた。
しかし、そうしたやり取りをした際にすれ違いがあったようで、どちらの母親もお互いに相手が迎えに行ってくれると勘違いしてしまった。その結果、その夜はTさん達の迎えに誰も来てくれない状態になっていた。
そんなことを知らないTさん達は、塾の前で来ることのない迎えを待ち続けていた。
他の人はみんな帰り、Tさん達二人だけになったところで、なかなか迎えが来ないことを次第に心配し始めた。
そんな不安を持ちつつも待っていたら、遠くに光が見えた。
やっと迎えが来てくれたと一瞬思ったけど、光の動きがスーッと滑るような感じで、すぐに違うとわかった。
ただ、何となく気になって近付いてくる光をずっと見ていた。
バイクか自転車のライトかと思ったけど、光が近付いてくるにつれ、それとも様子が違うと気付いた。
そうして光がすぐ近くまで来たところで、Tさん達は気付いた。
光の周りには何もなく、ただ光だけがこちらに近付いてきているのだ。
「火の玉だ!」
Tさん達は悲鳴を上げながら、そこから逃げ出した。
途中、墓地の近くを通らなければならず、恐怖しかなかったけど、とにかく逃げようと全力で走った。
そうして無事に家の近くまでたどり着いた時には、先程の光はもうどこにもいなかった。
Tさんは霊感があるわけでもなく、あれだけ怖い思いをしたのは、この体験が最初で最後だそうだ。
今では比較的都会に近いところに住み、深夜ですら真っ暗ということはなかなかない。
それでも、夜道を歩く時は今でも当時のことを思い出して少し怖いとTさんは話してくれた。
今では「火の玉」というと、どこか古いイメージを持つ。でも、田舎の方などでは最近でも正体不明の発光体を見たという人が結構いる。写真や映像に写り込む光の玉、いわゆるオーブの存在も多く確認されている。
もしかしたら、当時「火の玉」と呼ばれていたものが「オーブ」と呼ばれるようになっただけで、これらは同じものを指しているのかもしれない。
50年という長い年月が過ぎているのに、正体不明の発光体という似たような怪異が存在し続けているというのは、なかなか興味深い。
そんな雑話でした。




