何故か・・・
早く暖かくなってほしい今日この頃。
見知らぬ少女は、僕の前で凛とした声で叫んだ。
「お前が炎帝玉を受け継ぐし者ね!」
その少女は、黒髪を腰部分まで伸ばしていて、ふんわりと伸びている髪からは艶が出ている。その身に纏ったセーラ服のような清潔感のある服装にその髪はよく映えている。顔立ちは、ややきつめの目に小さな唇が固く結ばれているが、どこからか幼げな様子を知らず知らずの内に醸し出しているといった感じだ。
それは、もしかしたらその少女が小柄な容貌だったかもしれない。だが、それは非常に無為な考察で、今、いの一番に考えなければいけないことは少女が両手で掴んでいる二刀の刀の事であった。その幼げな容貌と対照的な位置に座している二刀は、眩いばかりの日光に照らされて、まがまがしく反射した。二刀の内、刃渡り30センチほどの刀は蒼く、刃渡り1メートルほどの刀は、緋色をしていた。
「うお……いきなり何だよ!」
問答無用で襲い掛かる彼女の切っ先に全力で注視し、寸での所で避ける。続いてもう一刀の刀が横から薙ぎ払うように来る。来るべき痛みに備え、僕はぎゅっと目を瞑ろうとしたその時、胸元のペンダントが眩いばかりに発光した。
「うわああ……!」
そして今正しく斬りつけようとする刃の前に真紅に光るシールド状の物質が表れた。刃が盾に接触する。ビィィンという弦を弾くような音が生じ、衝撃波が巻き起こる。
「きゃ……」
「うっ……」
お互いの体が吹っ飛ばされ、宙に浮く幽体感を存分に味わった後、僕は背中から地面に激突した。鋭い痛みが全身を駆け巡る。痛みに耐えながら上体を起こすと、少女も上体を起こした。汚れたセーラー服を気にもせず、少女はつかつかとこちらに向かってくる。恐怖の余り、僕は足元がおぼつかずその場で尻餅をついてしまった。
「ちょっと、ちょっと待って!これは夢なのか、いやそうだそうに違いない!」
いやいや何でいきなり僕は生死をかけた戦いに巻き込まれているんだ。いつからここはバーチャルリアリティーの世界になったんだ。論理的に考えて全くわけがわからない。
「お前に恨みはないけれど、ここで会ったのが運の尽きね」
少女は、眼前で二刀の刀を振りかぶった。……終わった。訪れる絶命の痛みに少しでも背こうと瞬間的に目を瞑る。その時、耳を劈く迫撃砲のような音が辺りに響いた。そして数秒後には眼前に光粒子のような着弾が突き刺さり、石畳は粉々に砕け散った。当たったら絶対にまずい。
「うわぁ!何だこれ」
少女は舌打ちをした後、身をひるがえした。そして、やや逡巡した後に僕の手を掴んだ。柔らかい手の感触が伝わる。
「逃げるわよ!」
言い切る前に少女は僕をつれて走り出した。
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