現実、現実
部屋に戻ると、どっと疲れが出た。考えてみれば当然か。今日は一世一代とも思われるような体験をしたのだ。今思い出しても、手が震える。脳内にあの体験が記憶の断片としてこびりついている。
シャロナは別の空き部屋で寝てもらうことにした。母さんは一緒に寝ればいいじゃないと言っていたがそれだけはご勘弁だ。いくらなんでもあの少女と寝るのは色々肉体的(いつ蹴られたり殴られたりするか分からない)にも精神的にも僕にとって悪影響があるからな。
僕は何気なく引き出しを開けた。さっきの話では、この引き出しがあの世界とつながっているということだけど、今はその引き出しは全く何の変哲もなければ持っているペンダントも何の兆候も示していない。果たしてそれが本当であるかどうかなんて真偽は怪しいものだ。結局、嘘っぱちなんじゃないか?僕が体験したことも実は夢であって、今もその夢の続きを見ている。そんなことだってあり得るじゃないか。僕はベッドに寝転んだ。そうだ。このまま寝れば今日起きたことなんて明日には忘れているはずだ。僕は羊を一匹ずつ数える睡眠法を用いた。
起きた時には、昨日とは明らかに違う感覚が生じていた。やっぱり夢だったのか?体が嘘のように軽い。その勢いのまま階段を駆け下り、リビングに向かう。眼下には見慣れた風景が広がっている。朝食を作る母さん、それに垂れ流しされているニュース番組。ただ1つ違和感がある。それは嫌というほど時間を共にした少女がテーブルの椅子に座っていたこと。
「現実かい!」
「何よ、何か文句あるの?」
少女改めシャロナはトーストをもぐもぐと口に含んでいた。その様子が少し小動物のように見えて思わずドキッとする。口は相変わらず悪いけど。そう言えば僕もゆっくりとはしてられない。今日も相変わらず学校がある。テーブルに用意されているハムエッグとトーストを急いで体内に取り込む。
説明を大幅に省いて申し訳ないけど、僕は身支度を手短に済ませた。そして学校へ向かおうとして玄関で靴を履こうとしたその時、シャロナが引き留めた。
「待って!私も行くから」
「え?何でというかいつまで家にいるの!?」
大分ツッコむのが遅くなってしまった気がするが、それはそれとして。シャロナはあたかも家人のような意気揚々とした態度で闊歩している。僕の記憶だと君と出会ったのは昨日だけど。
「あぁ、私はお前から宝玉を譲り受ける約束をした。 その上でもしお前をほっておくと宝玉を狙う何者かに易々と盗まれてしまうか、殺されてしまうだろう。 よって私はお前をずっと監視しなければならない」
してその心は?
「私もお前と共に生きる」
無駄にカッコいいセリフが飛んできた。もしかしてして生きる世界線を間違えてはないですかというツッコみをしたい気持ちを抑えつつ、尋ねる。
「ひょっとして学校だけでなく、私生活もですか?」
「勿論!」
胸を張って……というには平坦な胸を張ってシャロナは堂々と言い放った。
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