1話 いいところ無し
算数のテストが返され、俺は笑った。
「おい宇都宮!!お前なんで笑ってんだよ!?」
担任の岡田が俺を叱るが、そんなことはどうでもいい。
ゴミだ、ゴミすぎる。
俺は小さい頃から、「夏目漱石の生まれ変わり」と称されてきた。
文学に長けていたから、そう呼ばれるようになった。
母は優しかったが、何をしても褒めるので、だんだん褒められるだけの生活に飽きてきた。
刺激を求め家出したが、母に連れ戻された。
時々俺を捕まえては、「私のこと好きだよね?」と、母は聞く。
本当の母は、いちいち「好きだよね?」と確認をしないはず。
なぜなら、好きか嫌いかを聞いてくるということは、嫌われていないか心配である証拠だからだ。
たった1人の息子を疑うだなんて、ひどすぎる親だ。
それはともかく、俺は本を読むのが好きで、算数や理科の勉強はしなかった。
そして、今こうなったのだ。
「どうしてこんなひどい点数を取るんだ!?」
「知りませんけど。」
「黙れ!誰が喋っていいと言った!?授業中は私語厳禁だ!」
「先生、今、休憩時間ですよ。」
「うるせえ、俺が授業時間だと言ったら、授業時間なんだよ。」
理不尽だな。
「お前、長所ねえな。ま、所詮はFだもんな。」
俺たちは、生まれた時からレベルを指定されている。
基準は、親の家柄と賢さ、強さだ。
上のレベルから、H>T>Fだ。
HはハイレベルのHに由来している。
高レベルな人間、という意味だ。
Tは特別のTに由来しており、Fは普通のFが由来している。
つまり俺は、平均ギリギリってとこ。
みんながバカ扱いしてくるのももう慣れた。
有名な大学に入って、就職して、結婚して、子育てして・・・死んでいく。
それが当たり前だ。
だと思っていた。