第一話 虫刺され?
これから物語が始まります。
しかし、少し短くなってしまった。
それでもいいという方はどうぞ、ごゆっくりとご覧ください。
「『ミーンミンミンミン……』照りつける日差しに、季節を感じさせるセミの鳴き声。これはある夏のお話である……」
なーんちゃって。
ただナレーション風に今の状況を語ってみただけだ。
決して暇だからではない。
私は時井日夏。女子高生である。
特になんの特徴もなく、強いて言えばオタクなだけの平凡な人間だ。
特別な才能はなく、テストの点数は平均より少し高いぐらい。
つまり何が言いたいのかというと、私はあんまり目立ちたくない、ただの女の子なのだ。
……自分でも何が言いたいのかちょっとよくわからない。
まあ、平凡なことが取り柄の、普通の女子高生と思ってもらえれば良い。
そんな私は今、何をしているかというと……。
「はあー、やっぱこれ面白いわー」
「日夏、私もパソコンやりたいからはやくどいてよ」
パソコンで小説を見ているのである。どのサイトかはわかるだろう。
私は小学生ぐらいのころから小説を見るのにハマり、それ以来春夏秋冬いつでも必ずどれかの作品にハマっている。
好きな作品がアニメ化されたときの感動と言えば、それはもう天にも昇る気持ちだ。
というわけで、重度のオタクとなったものがここにいる。
そう、私は重度のオタクなのだ。
そして皆さん、不思議に思っただろう。
私が小説を見ているならば、それに問いかけている者は誰なんだ? と。
まあぶっちゃけ言っちゃうと私のお姉ちゃんなんだけどね。
苦情を出しているのが、私の姉ちゃんこと月夏。
姉ちゃんは私と同じく小説を見るのが好きであり、読んでいるところをよく見かける。
特に好きなジャンルは恋愛系なので、ファンタジー系の私とは語り合えない。
また、小説を書くのも好きだと言っているが見たこともない。
……最近になって嘘じゃね? と思い始めたのは事実だ。
まあそんなこんなで姉は私とはちょっと違う普通のオタクなのである。
本人は認めたがっていないが。
話を戻すけど同じジャンルの小説が好きじゃなくて共有できないのは別に良い。
本当に厄介なのはここからなのだ。
この、駄々こね攻撃が。
「ねえー、早く貸してよー」
体を床にごろごろ転がしながら駄々をこねるお姉ちゃん。
私たちはこの年にして残念ながらスマホを持っていない。
理由はお店が遠いからだ。
つまり、私たちがインターネットをつなげられ、かつ小説を見ることが出来るのはこのパソコンのみ。
しかも私たちは姉妹だからか、小説を見たくなるタイミングも一緒。
取り合いになるもの必然的なのである。
で、さらに。
これを放っておくと、駄々をこねるのがヒートアップする。
こう、お菓子を買ってもらえなかったちびっこ的な。
それはさすがに面倒なので、私はいつものように貸さなければいけないのだ。
「はあ、全くしょうがないなあ姉ちゃん。少しだけなら貸してあげる」
渋々パソコンの前から席を外すと、食いつくようにお姉ちゃんはパソコンにしがみついた。
「やった―――!!」
全く、いやな姉である。
私はやることがなくなってしまったため、外に出て遊ぶことにした。
道路が一本しかなく、木々が生い茂る森が家の裏手にある。
……私の家はジャングルなのだろうか。そう思ってしまうぐらい田舎だ。
そうして暑さと戦いながらも、何とか涼しい森に入った。
ここは年中涼しいため、夏にはよく重宝する。
だが、それが間違いだった。
足に走る、小さな痛み。
最初は草が当たったのかな? と思っていたけど、その痛みはずっと続く。
慌ててその個所を見ようとするも、草が生い茂っているためなかなか見れない。
怖くなって駆け出す。
多分虫に刺されたのだと思うが、それだけでは済まない可能性が高い。
なぜなら、私の体がだんだん冷たくなってきているのだ。
必死に走る。
あまり奥には入っていないはずだけど、ループしているかのように出口が見えない。
迷った。
その間にも痛みは激しくなっていき、ついにはその痛みに気を取られて、こけた。
何とか立ち上がろうとするも、すでに傷みが激しくなっているため立ち上がることが出来ない。
それとも、毒が回ってしまったか。
ウソだ。
死んでしまうのか?
だって、さっきまでお姉ちゃんと一緒に小説を見ていたはずなのに。
もしかして、これは夢かもしれない。
そう、ただの悪夢だ。
だが、痛みはある。
「……うぅ、死に……たく、ない」
まだ、まだ生きたい。
まだ小説全部見終わっていない。
いや、そんなこと考えている暇はない。
だが、私の意思とは反対にまぶたが重くなっていく。
まぶたを閉じるといけないような気がして、必死にこらえる。
すると、痛みがなくなっていく。
いや、感覚がなくなっていった、という方が正しいのか?
だんだん寒さや暑さもなくなっていき、ついには視界も色あせる。
ああ、私は死ぬんだ。
もう、ここで人生は終わってしまうんだ。
そう認めてしまうと、急に安心感が私を包む。
なぜか、死ぬのが怖くなくなった。
その安心感に身を任せ、私はまぶたを閉じる。
……志半ばで、死にたくはなかったな。
来世の人格になる人は、こんな人生を歩みたくはないだろう。
「……ぁ」
もう、声も出ない。
……そろそろ。
そして深い深い闇に誘われるように、私は意識を失った。
田舎の森の中で、一人の人間が息を引き取った。
投稿時間がバラバラになった。
ショボン。