楽しいゲーム
気が付いたら、俺は薄暗い部屋の中にいた。
何が起こったのか理解が出来ない俺は、キョロキョロと室内を見渡す。
すると突然、目の前に一人の男が現れた。
そして男は丁寧なお辞儀をすると、
「お初にお目にかかります。私、こういう者です」
といって名刺を差し出してくる。
「ああ、これはどうもご丁寧に」
俺は差し出された名刺を受け取った。
そこには、このゲームを運営している会社の社長の名前が書かれていたのだ。
「え? 社長さんですか?」
「はい」
「??? 何が御用ですか??」
「ええ、実は・・・」
すると社長は大きく頭を下げ、申し訳なさそうに言った。
「誠に申し訳ありません。貴方様のキャラクターを封印させてください」
「・・・は?」
突然の申し入れに、俺はただただ驚いた。
「いやいや、いきなり封印してくれって・・・」
「お気持ちは重々承知しております。しかし、貴方様のキャラクターには、ゲームバランスを崩してしまう力があるんです」
「まあ、それは分かりますが。・・・でも、例えデータであっても個人資産でしょう? いきなり、そちらの都合で封印とか・・・」
「もちろん、賠償はさせていただきます。お望みであれば、現金でのお支払いも致します」
その言葉に、俺の耳がピクリと動く。
「・・・え? 現金? つまりはリアルマネー? ゲーム内マネーじゃなくて本当のお金ですか?」
「はい。もちろんです」
「・・・ちなみに、いくら位ですかね?」
「これ位でいかがでしょうか?」
社長は取り出したメモ帳に金額を書いていく。
「・・・もうちょっと増やせません?」
「では、これ位で・・・」
社長が書き直した数字を見た俺は、決断を下す。
「確かに! このキャラはゲームバランスを崩してしまいますね! 私もこのゲームを愛するプレイヤーの一人! このキャラは封印すべきだと思います!」
そんな俺の言葉を聞いた社長は、再度頭を下げる。
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
「いいんですよ、いいんですよ。はっきり言って、このキャラには思い入れもありませんし。ちゃんと謝罪の気持ちも受け取りました。気にしないでください」
「ありがとうございます」
そんなやり取りの後、俺はゲームからログアウトした・・・。
数日後。
俺は新しく作り直したキャラでゲームにログインした。
「さ~~て。まずは掲示板でも見ますか」
そして賑わう広場に設置された掲示板を見上げると、そこには封印された俺の旧キャラの画像が所狭しと貼り付けられていたのだ。
どうやら、色々な個人やパーティーが俺の旧キャラを探しているらしい。
(まあ、もう封印されたから居ないんだけどね)
そんな事を考えながら、俺は掲示板を見渡して必要な情報を得る。
そしてその足で武器屋へと向かい、カウンターの向こうにいる懐かしの店員に話しかけた。
「すいませ~~ん。初心者用の魔法付与されてない剣を売ってくださ~い」
「あいよ! 兄ちゃん初心者だね。安くしとくよ」
武器屋から出てきた俺は、腰にぶら下がる普通の剣を見下ろして呟いた。
「やっぱり、こういうプレイの方が楽しいよな」