目指すは魔王討伐!!
「何が出るかな~~? 何が出るかな~~?」
武器屋から出た俺は、近くにあったベンチに座って木箱の中身を確かめる。
「お? これは何かな~~??」
俺は取り出したイヤリングのステータスを確認する。
そこには「飛行魔法」という表示があった
「空飛べるの!? すっご!!」
次に消費魔力を見て、俺は納得する。
「ああ、うん。さっきの指輪よりも燃費悪いわ。こりゃ売れないね」
そう言いつつも、俺はイヤリングを装備すると飛行魔法を発動する。
すると、徐々に体が浮き始めた。
「おおおお!! 本当に飛んだ!! え? え?! これ操作どうするの!? どっかに操作説明ないの!?」
俺は空中でジタバタともがきながら、必死に操作方法を調べる。
そんな俺の姿を、周囲にいた人々が見上げていた。
「は? あいつ何で空飛んでるの?」
「チートか?」
「!! 違う! あいつの耳見ろ!! あれは「飛行のイヤリング」だ!!」
「え?! あいつ飛行魔法使ってんの!? 何で使えるの!?」
「もしかして、新しい神様か!?」
「いや、魔力レベル15じゃ使えない筈だ!」
「じゃあ、あいつレベル15以上あるのかよ!!」
人々が地上でワチャワチャ騒いでいる間に、俺はどうにか操作方法を理解する。
そして俺は、ゆっくりと町の外を目指して飛び始めた。
一方で、地上に居る人々は俺を追いかける。
「おおおおい!! どうやって魔力レベル上げたのか教えてくれぇぇぇぇ!!」
「チート!? ねえ! チート!? チート使ったの!?」
「うちのパーティーに入らないか!? うちには可愛い女の子いるよ!!」
「こっちの方が良いって!! うちなんてアイドルいるよアイドル!!」
「おめーの所のアイドルは画像詐欺じゃねーか!!」
「何言ってやがる! てめーのパーティーにいる女はネカマだよバーカ!!」
「・・・え? マジで?」
そんな騒がしい地上を置き去りに、俺は徐々に速度と高度を上げていく。
そして終に俺は城壁を飛び越え、広い壁外へと飛び出した。
「ああ!! 行っちゃった・・・」
「一体、どうやって飛行魔法なんて発動できたんだよ・・・」
「追いつけないかな?」
「あの速度じゃ無理だろ」
「あいつ、一体誰なんだ? 有名人か?」
「俺は知らないな。誰か知らないか~~??」
そんな騒ぎの中、一部の人々が何かに気づき始める。
「・・・なあ、もしかしてあいつって魔力バカじゃね?」
「・・・ああ~~~。昔居たな、そんな奴」
「確か1年前位だっけ? メモに名前は残ってないか?」
「ちょっと待ってね・・・。ああ、うん、残ってた。やっぱり、あいつ魔力バカだわ」
「うわ~~~・・・。やっぱりそうかよ・・・」
「って事はだよ? あいつの魔力レベルって・・・」
「・・・神様なんてもんじゃないよな・・・」
「うわ~~!! なんで俺はバグの最中に魔力を上げなかったんだぁぁぁ!!」
「仕方ないよ。あの時は魔法なんて無かったんだし」
「でもさ~~~!! あああああ!! ちくしょーー!!」
一方その頃、俺は町から随分と離れた場所まで来ていた。
俺の眼下には岩肌がむき出しとなった山々が連なり、地上には大量の高レベルモンスター達が蠢いている。
「うっわ。流石は高ランクの狩場だわ」
飛行魔法を完全にマスターした俺は、空中で停止すると地上の様子を眺める。
すると、そんな俺に気が付いたモンスター達が攻撃魔法を次々と放ち始めた。
「・・・あれ? ひょっとしてバトル始まってるの?」
俺は眼下でピカピカと光る攻撃魔法の光を眺めながら、大量のモンスターとのバトルが開始している事に気が付く。
「ああ~~・・・、なるほど。この高度だとモンスターの攻撃魔法が届かないのか。・・・どうしよ? 攻撃しよっかな? でも、別にレベル上がるわけじゃないし、ドロップアイテム回収するのも面倒くさいしな~~」
俺は暫く空中で思案を続けたが、モンスターと戦うメリットを思いつくことが出来なかった。
最終的に、
「よし。無視しよう」
と結論を出した俺は、目的地へと急ぐことにしたのだ。
俺の目的地。
それは、このゲーム最強のモンスター「魔王」が住んでいるという魔王島だ。
島の周囲には高レベルのモンスター達が大量に配置され、プレイヤーの行く手を阻み続けている。
そんな難関を潜り抜けて島に辿り着いたとしても、島の中央に居るという魔王まで辿り着くのは至難の業だ。
道中にはモンスターはもちろん、即死級の罠が大量に存在し、プレイヤーの命を次々と奪っていく。
そんな恐ろしい道を、俺は悠々と飛行魔法で回避しながら進んでいく。
「うわ~~。モンスターも睨むんだな」
どうやら地上にいるモンスター達は俺に対して攻撃出来ないことが不満らしい。
彼らはギャーギャーと騒ぎながら俺を睨みつけてくる。
「・・・まあ、どんなに抗議されようとも、無視するんですけどね」
それからマグマを吹き出す活火山や、毒々しい色をした池を飛び越えて、俺は島の中央部を目指す。
すると少しして、俺は島の中央部っぽい場所を見つけた。
「お~~。なんかデカいのが居る」
中央部っぽい場所には広場があり、何やら大きなモンスターが巨大な岩で作られた椅子に腰かけている。
どうやら、あそこが玉座のようだ。
「って事は戦闘になるじゃん。指輪装備しとこ」
俺はイソイソと木箱から火炎魔法を放つことが出来る指輪を取り出して装備する。
そして使える魔法の一覧に火炎魔法が加わったことを確認すると、魔王の前に降り立った。
「はえ~~~。でっかい」
まさしく「王」の威厳を放つが如く、魔王はゴツゴツとした黒い鎧を身にまとい、静かに腕を組んで玉座に腰かけている。
すると、魔王はゆっくりと立ち上がり、地面に突き刺さっていた巨大な剣を引き抜いた。
そして、魔王が剣を構える。
「・・・え? これバトル始まってるの? BGM切ってるからよく分からんな」
そんな俺の独り言をよそに、魔王が剣を大きく振りかぶった。
「あ~~~、バトル始まってるわ」
俺は急いで飛行魔法を発動して上空へ退避する。
そして、魔法一覧から火炎魔法を選択し、魔王にターゲットを絞った。
「ん? 魔王のレベルってプレイヤーの上限レベル超えてるじゃん。これ、本当に攻略させるつもりあったのかね?」
そんな事を言いつつ、俺は火炎魔法を放つ。
すると、巨大な火柱が魔王を包み込んだ。
正しく「業火」と表現するに相応しい炎の中で、魔王は断末魔の叫び声を発する。
そんな光景を見た俺は、
「お~~。エフェクト綺麗やん」
と言うと、パチパチと拍手を送った。
それから、魔王はボロボロになりながらも立ち上がり、
「どうやら、本当の姿を見せる時が来たようだ」
とか呟くと、姿を変えた。
多分、これは第二形態という奴なのだろう。
レベルを見ると、先ほどよりも上昇している。
俺は火炎魔法を放った。
その後も何度か魔王は形態を変え,その度にレベルを上昇させながら俺とのバトルを継続した。
どうやら、ここまで魔王を追い詰めた人間は俺が初めてらしく、本気の本気で戦える事を嬉しく思っているらしい。
・・・多分、そんな感じのセリフを言っていた気がする・・・。
一方で俺は、
「も~~~、いつまで続くの?? いい加減飽きてきたんだけど」
と空中で文句を言いながら火炎魔法を連発する。
そして第十形態になった魔王を消し炭にしたところで、ようやくバトルは終了する。
黒焦げになった異形のモンスター「魔王」は大きな音を立てて地面に倒れ、満足そうに何かを呟くと、サラサラと灰になって消え去った。
その瞬間、空からファンファーレの音と共に、
「運営より連絡いたします。魔王の討伐に成功しました。繰り返します。魔王の討伐に成功しました」
という声が響く。
その声を聞きながら、俺の視界は暗転した。