魔力最強!!
俺がゲームをやめて1年後。
希望していた大学にも合格し、俺はのんびりと大学生活を楽しんでいた。
そんなある時、俺は件のオンラインゲームを思い出す。
俺がやめてからもゲームの人気は衰えることはなく、むしろプレイヤー人数は増す一方だとか。
「まあ、暇だし。久しぶりにやってみるか」
それから俺は久しぶりにヘルメットを被ると、ゲームを起動した。
「おお、久しぶりの広場じゃん。懐かしな」
俺は一年前と変わらず、いや、一年前よりも賑わう広場を眺めて一人呟いた。
「さて、もう初心者じゃないしな。しっかりと掲示板を見てからプレイをしようじゃないか」
俺はトコトコと広場にある掲示板まで歩いていく。
そして見上げた掲示板の様子は、一年前とは随分と様変わりしていた。
<魔力レベルを効率的にあげる方法教えて下さい!>
<パーティーメンバー募集! 魔力レベル1から大歓迎! 当方には魔力レベル6のベテランがいるので優しく指導できます!>
<魔法付与武器大特価! 詳しくはDMください!>
そんな魔力魔力と書かれた掲示板を見た俺は、衝撃を受けた。
「魔法付与武器? なんだそりゃ? ・・・ってか、魔力が重要視されてるのか?」
俺は状況が理解できなかったので、とりあえず武器屋に行って魔法付与武器というのが何なのか調べることにした。
そして大きな武器屋に辿り着いた俺は、急いでカウンターの向こう側にいる店員に話しかける。
「すいません。魔法付与武器ってなんですか?」
すると店員は怪訝そうな顔をしながら答える。
「え? そりゃ、魔法を付与された武器の事だよ」
「魔法? このゲーム、魔法なんて要素が追加されたの? 一年前はなかったのに」
「なんだ、知らないのか? 半年くらい前の大型アップデートで追加されたんだよ」
(半年前・・・、ああ、俺が受験勉強で死にかけていた頃だわ)
「久しぶりにプレイするもんで、知らんかった」
「なるほどな。それで気になったわけか」
そういうと、店員は近くにあった武器を手に取る。
「魔法ってのは基本的にアイテムに付与されているんだよ。で、自身の魔力を消費することで魔法は発動できるんだ。・・・ああ、安心してくれ。魔力は時間と共に回復するから」
店員は俺に武器を差し出し、説明を続ける。
「これはかなり一般的な剣だな。標準的な攻撃魔法が付与されているから初心者からベテランまで愛用している奴は多い。一番のおすすめ商品だ」
「ちなみに値段は?」
「大体、これくらいだな」
そう言って店員が見せた値札には、かなり強気の値段が書かれていた。
「たっか!!」
「そりゃ人気商品だしな。値段も強気になるさ」
「強気すぎるわ!」
とてもでは無いが俺に買える値段ではない。
そもそも、俺の手持ちは1年前にスライムを狩って手にいれた小金しかないのだ。
「俺の手持ちはこれだけなんだけど、これで買える魔法付与アイテムって無い?」
「どれどれ・・・? ・・・兄ちゃん。とりあえず魔法付与武器は諦めて、普通の剣を買って金稼いだ方がいいぜ」
店員は飽きれ顔で俺に普通の剣を薦めてくる。
しかし、俺は魔力以外のステータスが0なのだ。
普通の剣では良くてスライム程度しか狩ることができない。
俺は粘った。
「この予算で買える魔法付与アイテムってなにか無いの? 本当に無いの? 実はあるんじゃないの?」
「そんな事言ってもなぁ~~」
店員は難しい顔をしながら悩み始める。
そして、小さく呟いた。
「まあ・・・。あるには、ある」
「よっしゃ! 見せて見せて!!」
すると店員は「ヤレヤレ」と呟きながら、小さな木箱をカウンターに置いた。
「この木箱に入っている奴なら、木箱ごと全部売ってやるよ」
「木箱ごと全部?」
「ああ、そうさ。全部だ全部」
俺は木箱を覗き込むと、そこには指輪や腕輪、アクセサリーのようなアイテムがいくつも入っていた。
「これ、何? どんな魔法が使えるの?」
「そうだな・・・。ああ、これなんて分かりやすいかもしれないな」
店員は小さな指輪を木箱から取り出し、俺の前に置く。
「これは相手の総合レベル×1000のダメージを与える火炎魔法が使える指輪だ。しかもこの魔法な、防御、回避、反撃不可だ」
「は!? 最強じゃん!!」
「まあ、そうなんだがなぁ・・・」
ため息を吐きながら、店員は指輪のステータスを表示する。
「ほら、消費魔力の部分を見てみろ。この指輪は強力な攻撃魔法が使えるんだが、とんでもない量の魔力が必要なんだよ。ってか、個人でこれを撃てる奴なんて居ないな」
「見せて見せて」
俺は指輪のステータスを覗き込む。
「・・・ん~~。正直、この数字がどれだけ大きいのか、よく分からない・・・」
「まあ、久しぶりにプレイする奴には分からんだろうな。これはな? 神様が全員集まっても一発撃てるかどうかって数字なんだよ」
「神様?」
「ああ、そこから説明しないといけないのか・・・」
すると店員は頭をポリポリとかきながら話し始める。
「神様ってのは魔力レベルが15になった奴のことを言うんだよ。本当に数が少なくてな。ゲーム内でも5人と居ない」
「レベル15以上になったら、何て呼ばれるの?」
「そんな奴は居ないな。現状で魔力レベルは15が最高だ。それ位、魔力ってのはレベルを上げるのが大変なんだよ」
ある意味で衝撃的な事実に、俺は返事が出来なかった。
たったレベル15で神様扱いなのか・・・、俺の足元にも及ばないじゃないか。
「まあ、それ以外は色々と呼ばれているな。レベル5以上でベテランとか、レベル10以上で1流とか」
「・・・レベル5でベテラン・・・」
そこまで説明して、店員は指輪を指さす。
「つまりだ。この指輪は効果は絶大だが、誰も扱えない。だから、値段も安くなるんだよ」
「なるほどね」
「で? どうするよ兄ちゃん。この木箱には似たようなアイテムが詰まっているが、買うかい?」
そう言ってニヤニヤと笑う店員だったが、俺は即答した。
「買う。全部買う」
「そうだろう、そうだろう。止めとくのが正解・・・、は? 買うの?」
「もちろん。全部買うよ」
俺の答えを聞いた店員は呆れた顔で声を出す。
「俺の説明聞いてた? これ、使えないの」
「全部聞いてたさ」
「あ~~・・・。まあ、いっか。とりあえず会話内容は記録しとくから。後から「騙された!」とかクレームいれないでくれよ?」
そう言うと、店員は木箱を俺に差し出してくるのだった。