石と命 ⑦
生命はどこから発生するのだろうか?そもそも、存在を追求できる程その正体は明らかなのだろうか。否、先人たちですら究明できなかった事柄である。だからこそ、『宗教』という虚構の歴史が今現在にも語り継がれるようになったのだろう。
石に宿った生命であろうものも同じ。要因は分かっていても、それを構成しているものの正体が全く分からない。何かに阻まれているという表現こそはしたが、これが生きとし生ける者の限界なのではないか。そうとも取れる。
命が帰るまでも、その後も、同じことをグルグルと考えてばかりで何も手に付かない。忘れて魔法の研究に勤しもうとしても、気づけば石の前にいてただじっと見つめている。まるで夢遊病だ。…いや、これは本当の本当に、この石に宿った命に魅入られてしまった可能性が高い。
「はあ…」
自然とため息の回数も増えていく。人前ではなるべく控えてはいるが、それにももう疲れてしまった。これまでそれなりに平穏に過ごしてきたのに、突然良くない事が起きるだの石に取り込まれるだの言われてどうしろと言うのか。いくら天神とは言えできることは限られる。そもそも自分は唯の魔女であって神様でも何でもない。
「…せ」
「ええ?」
「こ…。…ろせ」
「何…言ってんだ?」
「ころせ…ころせ…人間も…術者も…」
地の底から湧いて出てくるようなその声は、間違いなく目の前の石から響いていた。それは同じ事ばかり呟いて会話も全く成り立たない。こちらに話しかけているというよりは、独り言が漏れているような印象を受ける。
「ころせ、ころせ、術者も人間も。ころせ、ころせ、神様も。こわせ、こわせ、こんな世界。こわせ、こわせ、もろともに」
聞くだけで鬱になるような言葉の数々。後から気づいたが、これは一つの詩になっているらしい。ずっと同じ調子で、破滅を一心に願う誰かの想いを淡々と口ずさむだけだったが、それでもその思いがどれだけ強いか知るのには充分すぎる。
しかしどんなに手を尽くしてもその声が収まる気配を見せない。これまでは声なぞ全く聞こえなかったのに、孔の結界を無視できる程石も成長したということだろう。こうなってはもう手遅れである。彼は慌てて家を飛び出した。
向かう先は月占神社…の奥に広がる竹林。あまりに広大なその中を迷いもなくただただ走り抜ける。運が良ければ一発でヨミの寝起きしている民家へ辿りつく音ができる。もし、この日に限ってヨミが結界を強くしていれば辿り着くどころか脱出することも叶わないだろう。
「…」
その日は運が良かった。それほど時間もかけることなく目的地へと辿り付き、さらにはその場でヨミ本人を見つけることもできた。彼は呑気に屋根の上で月を眺めているようだった。明かりもつけずにおり頼れるのは月光だけだったが、彼は余計に際立っていた。
「ヨミ!」
なるべく迷惑にならない程度に声を張って呼びかけると、ヨミはゆらりと孔の方を見た。にっこりと笑っている。
「あなたが今日のこの時間、ここに来ることは暦にありました。なので結界も緩めておいて良かったです。私が暦をきちんと事細かく正確に把握するような性格でなければ、あなたは今頃目的も果たせずここからも出られずに途方に暮れていた事でしょうね」
「あーあーそういうのは大丈夫だから。風の魔法も使えば飛ぶこともできるし、手まだあるんだ」
「そうでしたか」
「そんなことよりも今すぐうちに来てくれないか?石の成長が予想外に早すぎたんだ」
「それも暦にきちんとあります。『縁起の悪しき石は、疾き成長遂げて魔女に声を聞かす。その声は地の底より湧く黄泉の住人の歌声なり。その合唱を止むることは何人たりとも敵わなあり』とね。ちなみに暦を読んで策を教えろという願いは聞き入れられません。何度も言うように、世の中が矛盾で溢れてしまいますので」
「分かったからとにかく…」
「良いでしょう。今そこに降ります」
ヨミは持っていた巻物を素早く巻き取って懐にしまうと、その場から飛び降りた。まるで舞台装置のようにふわりと降り立つと
「さあ行きましょう」
とさっさと歩いて行ってしまう。




