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子曰く  作者: 神秋路
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石と命 ②

「幻霧章……」


 このままではいけない。今は命がいるので応急処置として、記憶でも無くさせてこれ以上変異させないようにしようとも思ったが、ただの物質に記憶操作の魔法をかけたところで何もならない。その場は諦めて、早々に命を家に帰すことにした。


「命ちゃん、ちょっと仕事が入ったから今日はもうお開きにして良いかな」

「うん、大丈夫!」

「ありがとう、頑張ってるところごめんね。お土産にお菓子も持って行っていいし、その本も貸すから」

「こちらこそ、ありがとう。勉強もたくさん教えてもらってるんだから、文句は言えないもの」


 命は大人しく帰り支度を済ませると、本と貰ったお菓子を抱えて一人で帰っていった。送ろうかと声を掛けたが、まだ明るいからと断った。


 彼女がその場から去ると、孔は内鍵をかけると、地下に籠った。以前かけた魔法を丁寧に剥がしてその全貌を捉える。想像していたよりも石は随分と変貌しており、見た目にはあまり変化は見られないものの、はっきりと鼓動のような音も聞こえる。もはや誰かの心臓なのではないかと勘違いしても無理はないだろう。


 こういう時は、一人で判断を下さずに第三者からの意見を募る方が良い。孔は早速この石を押し付けてきた凪へ電話をかけ、現状を事細かに説明して聞かせた。凪は始終落ち着き払って話を聞いていた。


「明らかに中に誰かがいるんだよ。そこまでは分かるんだが、それから先が全く見えないんだ。誰がいるのかも、何のためにこれが出来上がったのかも…」

「うーん…神様っっていうわけで…なさそうだね、その様子だと」

「だとしたら相当な邪神じゃねーかな。ヨミでも太刀打ちできなそうだ」

「ヨミもヨミで実力を見せたことが無いから、あまりそういうことは確実に言えないんだけど…聞いてみようか?」

「そこにいるのか」

「いいや、まだ眠ってると思うけど…起こしても怒るようなタイプじゃないし、聞いてくるよ」


 凪はそういうと一旦通話を終わらせた。ヨミが居住している竹藪の中は、ヨミの結界など様々なものが施されているので、電波があまり通らないのだそう。夜の神なだけあり、何年生きてもやはり日の光は苦手らしく昼間に眠り夜に活動するのだが、眠れないことの方がほとんどだと聞いたことがあった。


 しばらく待つと凪から着信があり、すぐに応答した。


「半分寝ぼけてたからあまり信用できないけど、見るくらいならできるってさ」

「ちゃんと起こせよ」

「夜になったらどうせ起きるし、そっちに行くように言っておいたから」

「寝ぼけてた奴になんてこと言うんだよ」

「本当に大丈夫だって」

「…そこまで言うなら信じるけどよ。他に何か言ってなかったか?あいつ、何か知ってそうな感じだったんだよ」


 凪は、少し考えるとすぐに思い出したように話した。


「ああ、厳重に閉じ込めろだってさ。それはもう完膚無きまでに。たぶん、今の現状の分かってると思うんだよね、占いか何かで」

「あ、あーうん、わかった。ありがとう」


 すぐに通話を終わらせると急いで一度剥がした魔法をもう一度かけなおし、更に拘束の魔法をいくつかかけた。あんまりにも魔法を重ねたので、中の石の様子は分からなくなってしまったが、それでもあの鼓動が聞こえるような気がして落ち着かなかった。


 ヨミが来るまでの間、この家に存在するあらゆる本を漁り同じような石や道具などは無いか調べたが、何ひとつかすりもせず収穫は無かった。

夕日が沈み切る頃にはヨミが来た。いつもよりも服装や髪も含めてヨレヨレとしていて、目の下にはうっすら隈が現れている。


「…大丈夫か?今度でも良いんだぞ」

「いえ、本当に大丈夫です。ここまで譲歩したのですから、また今度ということにしてしまっては今日の私の努力は水の泡になりますので」

「そこまで無理しなくても良かったんだけど」

「いつかはしなければいけないことですから、後回しにしたところで得はありません。今日のことは私の運が悪かったということにしておきましょう。ところで、あの石は?」

「ああ、地下の方に。お前の言う通りガチガチに閉じ込めておいたんだけど、全然効果が無い感覚がして気持ち悪いんだよね」


 もう一度ヨミの前で全ての魔法を剥がす。ヨミは極限まで石に顔を近づけ、しかし絶対に触れないようにまじまじと観察した。やがて、そっと人差し指で触れると目を閉じた。ヨミがこうして動くほど事がここまで進んでしまっているのなら、もう魔女である自分が出て来られる領域ではないのだろう。孔は、じっとヨミを見守る事しかできなかった。

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