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子曰く  作者: 神秋路
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置き土産の中身 ④

 先輩は、外見を全体的に見ると線が細い方であり、何かを食べている姿を見たことが無いので時々心配になるくらいなのだが、いざ彼を羽交い絞めにしてみると案外力が強い。慎重派自分の方がいくらか大きいはずなのに、そのまま引きずられそうな感覚がする。


「先輩、着やせとかするタイプですか?」


 と聞きたいところだが、そんな余裕もない。


「離せっ邪魔すんな!」


 なんて理不尽の数々を浴びせられるだけで精いっぱいなのだから。


「先輩!落ち着いて!」

「どっからどう見ても落ち着いてるだろ!どこに目えつけてんだボケナス!良いから離せって死にたいのか!」

「どっちにしたって死ぬ運命に僕を導くのはやめてください!いつになったら気が済むんですか!」

「この薬を調合したら!」

「死ぬじゃないですか!!」

「死ぬのが怖くて魔法薬学はやってられないだろ!」


 そういう日は、一日の部活動の全てを先輩を止める事だけに充てるのが一番だ。


 普通の人間ならば、この先輩という人物にうんざりしてすぐにでも部活を辞めてしまいそうなものなのだが、この遠入は何も言わずに笑って先輩の行動について行った。先輩も、そんな後輩にすっかり気を許して、自分の知っている知識のほとんどを分け与えた。


 この、少々歪で奇妙な生活は特に孔にとっては非常に充実した生活となった。学校を休みがちだった孔は毎日登校するようになり、部活での彼の様子を遠入が友人たちに話すことによって、校内の孔や術者の印象が好転した。これまでの一年間の生活とは比にならない程生きやすくなった、と孔は良く笑うようになり、遠入ももっと笑うようになった。


 しかし、長い歴史の中で蠢いていた差別や迫害は消えることはない。


 孔の知識欲のようにそれはある日突然湧いて、そして爆発する。


 珍しく土砂降りの雨が激しく音を立てていた放課後。教室の机の中に大事にしていた魔法書を忘れてしまったその時間。一旦部室に入ったもののその事に気づいた孔は、遠入に薬の面倒を見るように頼むと、白衣を着たまま早足で教室に向かった。学校の放課後は必ず、暇を持て余した学生が教室にたむろしている。もし自分が人間であっても、そんなところには近づきたくないところだが、もし机の中を漁られて魔法書でも見られた場合を考えるとゾッとする。背に腹は代えられぬと自分に言い聞かせ、できるだけ誰とも鉢合わせないように教室を目指した。


 目的地に近づくと、やはり誰かの話声が聞こえる。大声で誰かの悪口か何かを話し、大声で笑い、いかにも誰も近づかなさそうな雰囲気を帯びている。目を合わせないようにうつむき加減で扉を開けるが、当然視線は自分に集中する。幸い、席が扉の目の前なので開ければすぐに机の中を覗くことができる。これもこれまでのいじめまがいのようなものの賜物だろうか。


「あ、危ない魔女の神崎クンじゃん」

「今日も引きこもって危ないオクスリの研究?」


 教室に入ってきた人物が誰か認めたクラスメイトたちは、早速彼に棘のある言葉を浴びせる。しかし孔は、いつも聞かされた冷やかしをいつものように聞き流し、机の中を手探りで本を探す。


 本は無かった。

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