置き土産の中身 ①
後日、武藤から面白い連絡が入った。なんと孔が言った通り、何も行事は無いのに政府から来たであろう人々が学校へやってきて校長と何やら話し込んでいるのだという。
「あの時、『神崎って名前の生徒を調べろ』って言ってただろ?」
「おう、言ったな」
「その通りに調べてみたらもう大騒ぎでさ、校長が急いでどっかに連絡入れてて…」
「そりゃあもう騒ぐだろうさ。なんていったって俺だからな」
「でも、孔だからってどうしたっていうの?なんかしたの?」
「うーん…話せば長くなるなあ」
電話越しに武藤の息遣いが微かに聞こえる。それだけで、彼が『聞きたい』と心底思っているであろうことが何となく伺える。
孔はソファに深く座り、煙草に火をつけた。肺の中にあの有害物質が充満していく感覚がして落ち着く。
「あの学校が俺の母校だって話はしただろ?たぶん、まともに通えなかったこともいつだったか言ったと思う」
「うん、言ったね」
「あれにはちゃんと訳があってさ、ただ学校内で迫害されただけじゃないんだよ」
「ええ?何があったの?正直、お国の人が動くなんてただ事じゃないだろ?」
「うーん…まあそうなんだけど。ありったけの魔法薬ぶっかけてただの人間の生徒を殺しかけた魔女がいるって通報入ったら、国も動くよなあ」
半笑いしながら煙草を燻らす。今でも信じられない話だが、全て自分が引き起こした事実である。
「殺しかけた…って本当に?比喩じゃなくて?」
「本当の本当に殺しかけてたよ。あと一歩治療が遅かったら確実に死んでた」
「一体どんな薬を…いや、聞かないでおくよ」
「まあまあ聞いとけ、いい機会だから。どうせ暇だから電話かけてきたんだろ?」
「あー…バレた?」
今は日曜日の真昼。もし仕事に出ていたとしてもその最中に連絡して来るなんて普通はしないだろう。
「ええと…それでつまり俺の高校時代の話をすればいいんだろ?」
自分の暗い過去のはずなのに、孔はなんだか楽しくなって気づかないうちにニヤニヤしていた。
「う、うん…何が何だか分からないし」
「簡単に言うと、今でも起こり得ることではあるんだ。人間が術者を貶める。術者の堪忍袋の緒が切れる。そこで俺は薬品をぶちまけたってわけ」
「はあ…薬品って孔らしいけど殺しかけたなんて聞いたらちょっとやりすぎな気もするんだけど?」
「そう言わないで聞いてくれよ」
彼の高校時代では、今よりも術者への迫害の風潮が少々強かった。やっと義務教育を終え、知り合いも誰もいない遠い高校へと進学し、度重なる嫌がらせから向け出せたところだった。当時の自宅から一駅二駅ほどしか離れていなかったが、立地の悪さ、町自体の魅力の無さ、偏差値の高さもあって孔以外に母校から進学した者はいなかった。高い偏差値と言っても、今思えば大したことが無かったが、当時の学生から見ればいくらか敷居が高かったのかも知れない。
「進学してやっとまともな友達もできてさ。さすがに俺の趣味趣向は誰にも理解してもらえなかったけど、人間関係も充実してたんだよ。学校って勉強以外にも楽しいことあったんだなあって楽しくやってたんだけどさ、たぶん昔の同級生がどっかでその時の友達とほっつき歩いてるところを見たんだろうな。縁もツテも無いのに何をどうやったのか、一週間後には俺が術者だって話がすっかり広まってたよ」
それまでの同級生の誰かが孔の進学先と何かしらのつながりは無かったはずだが、不思議なことにすぐに彼の出自から何まで全ての情報が流れていた。
それからの話はもう分かり切っていることだった。
それまでの友人は掌返し、先生からも毎日冷たい視線を浴びせられ、入学して約半年で中学までと同じ生活へと逆戻りすることとなった。




