魔女からの最高の置き土産 ④
「な、何ですか…さっきから黙って聞いていれば、そんなに不満なら私や他の先生があなたの気に入らないことを言った時にでも言いたいことを言えば良かったんじゃないですか…!?こんな時に何もできないからって言いたい放題言っちゃって…これだから術者は嫌いなんです!」
「勘違いしないで欲しいのは、今清水せんせが言った事そのままなんだけど。何も俺はこの日を狙ってねちねち鬱憤を晴らそうと思ってしているわけじゃない。…あ、この日っていうのはちょっと狙ったかもな。何せ『神崎先生』の最後の日だから、それなりの置き土産はしたかったし」
「何なのよ…ふざけないで頂戴…」
「だが、これはただの報復なんかとはわけが違う。けど、お前らが好きな術者に対する思想を子供に植え付けるための講演でもない」
「じゃあなんだって言うのよ」
「さっき言っただろ?『術者のことはどう考えている』?残念だけど、お前みたいな奴が掲げてるのは見境なく画一的にするためのものでしかないんだ。なんて言うのかな…奥行きが無い。力が使えるから危険。命をずっと人質に取られているも同然。だから差別しましょう。だけど僧侶と神官は力が無いから大切にしましょう。長いことそういう考えしかしてこなかったからたぶん脳死してんのかな」
つまりは、彼が初めに述べた問いは言葉のまま受け取ってはいけないということ。「自分たちのことをどう考えているか?自分たちのような者が身近にいた場合のことを考えたことがあるか?」というのは、裏を返せば「お前たちは自分たちにどんな手を下したい?」という意味にもなる。彼は、その答えによって現代の人間たちが自分たちをどのようにして制裁したいのかを理解しようと図っていた。長らく続いた二者の関係を考えれば、人間の子供は術者を排除するような思想を与えられて育つことは避けられない。それならせめて、今の人間の思想を見て対応することなら可能だろう。伊織や命のようなことはもう二度と起こさせるわけにはいかない。このままでは、もっと残酷なことが起きてもおかしくない。
今一度、術者の為にもこの関係にも新しい風を吹かさなければいけない。
「……まあ、自己中心的なのはお互い様なのかもな」
「先生、良いですか?」
宇佐美の声が響く。彼女は、他の生徒が大勢いる中でも躊躇なく右手をぴん、と立てて自己を主張していた。
「どうした?やっぱり意見変えたい?」
「いえ、そんな気はありません。ただ、あの、純粋に気になることがあって」
「?」
「先生、どうして今になって人間の言葉を聞こうと思ったんですか?」
「人間の言葉はいつも聞こうとしてるんだ。だけど、条件によってはすぐに偏る難しい話だからな。何度も言うように、『この場を借りて』お前たちの言葉を聞こうとしたんだ」
「意味が分からないです…だって、えと、先生が今していることって…あの時の講演の人と同じようにも見えるんです。そんなことをするくらいなら、こんなちっぽけな学校じゃなくて偉い人のところに行った方が良いし…それに…あの…先生…術者の王様、みたいでなんだか表情、怖いです…よ」
「え?」
反射的に自分の顔に触れると、眉間に皺が寄っていた。いつの間にか表情が険しくなっていたらしい。冷静を保っていたつもりだったが、どうも気づかないうちに自分も熱くなっていたようだ。
「…ああ、悪い悪い」
一瞬で体中の熱が冷めていくような感覚がする。やはり自分は勝手に熱くなっていたようだ。
「でも術者の王様っていうのはある意味間違ってはいないんだ。王様っていうより、頭領っていうか。こうして胸張って人前で大口叩ける術者は俺と…片手で数える程しかいないんだ」
「…」
「心底腹が立つけど、術者は人間のおかげで弱くなったし、これでも随分数は減ったんだ。だから、皆活力すら無くして世間から隠れて生きるので精一杯。もし人間の目の前に出たら、言葉通り石を投げられる羽目になるし、何もしてないのに逮捕されたなんてヤツもいた。俺だって町中で堂々と自宅構えてるわけでも無い。そんなことができるのは神官僧侶くらいだろう」
それきり宇佐美は黙った。他の人間も何かを話す気も失せただろう。
「…とまあ、ここまで聞いたところで、もう一度お前たちに聞こう。『俺たちに対して何を思う』『俺たちに何をしたい』『俺たちをどうしたい』」
自分でもめちゃくちゃな事を言っているのは充分分かっている。話の筋も全く通ってはいないだろう。目の前の聞き手だって自分が何を言いたいかなんて一切理解できていないはずだ。
だけれど、それでも良かった。聞きたいことは聞けた。言いたいことも言えた。これで、自分たちの代が舐めさせられてきた辛酸の分は返したことにしよう。これでおあいこだ。




