魔女からの最高の置き土産 ②
「え、神崎が?」
「嘘、気づかなかったんだけど」
「でもあの講演で長谷川先輩が騒いで倒れた時も、神崎が真っ先にすっ飛んで行ったよな」
「俺てっきり二人がデキてんのかと思ったわ」
「そこ!神崎先生は学生時代に恋愛で失敗したので二度と恋愛はしません!ちなみに神崎先生は年下に興味はありません!」
反応を見せた生徒の間で「ええ…熟女趣味かよ…」という大変不本意で検討外れな噂が広まったところで、孔は一つ息を吐いて頭の中を整理した。今日は自分の性的趣向を晒すためにここに立っているわけでは無い。
「ここからは『魔女の神崎孔』として話をする!お前たちはこんな式で時間を取られるのは不本意だろうが、いい機会だからじっくり話をさせてもらう!もうあの『科学の神崎先生』は仕事を終えたからな!」
初めから、この場をめちゃくちゃにする覚悟でこの壇上に立っている。だから、恐れることは何も無かった。もうこの場所に顔を出すことも無いから、好きなだけ目の前の人間にこの日の記憶を植え付けることだってできる。
少し前、遠藤と武藤には今日の計画のことは話していた。少数ではあるが見方もいるし、多方面から厚い信頼を受ける教頭の武藤ならば、うまくこの場を収めてくれることだろう。話をしたとき、彼も言っていた。
「あなたのその計画は、きっとうまくいくよ」
と。占い師の末裔の言うことなのだから、正直に信じても大丈夫だ。
「さて、さっき神崎先生が言った通り、今から俺が話すことに耳を傾けなかったと見なした時にはこの薬を容赦無くぶちまけるから、よく考えて行動するんだ。聞きたいことがあれば聞いても良い。術者の頂点に祭り上げられたこの神崎、それくらいは寛大だからな」
「神崎君!もうやめたまえ!この状況が世間に広まってしまえば、どうなると思っている!?」
「こんな学校、それこそニュースにでもなんにでもなって潰れちまえば良い!俺は入学してから一度も、この学校のことを学び舎として認識したことが無いからな!お前みたいなのがたくさんいたから!」
「な…!」
「もうお察しだとは思うが、あの長谷川姉妹も術者の末裔だ。残念ながら俺のようにはっきりした力は受け継がなかったが、それでもれっきとした術者だ。果たして、そのことに気づいた人間はこの中に何人いる?」
ちらりと教員達のいるスペースを見やると、武藤が隅の方で一人で笑っていた。誰にも分からないようにくすくすとしているが、本当なら大声で笑いたそうにも見えた。教頭の遠藤は、変わらずニコニコと見守ってくれている。
「俺の知っている中では一人から二人だ。生徒の中には一人もいないと思ってる。興味もなさそうだし、見ていて術者の話題なんて大人から振られない限り出さないんじゃないか?」
ここで、面識のある生徒たちが頷いた。彼らは『神崎先生じゃない魔女の神崎孔』を早くも認めてくれたのだろう。これは、本当に彼らのほとんどは術者云々の話はしない証拠にもなるだろう。
「じゃあ、そんなお前らがあの時術者に対するヘイトスピーチの真似事を聞かされたり、迫害と差別を受ける術者の映像を見せられた時どう思った?宇佐美!」
「へ!?わわ私ですか!?」
眼鏡をかけた大人しそうな生徒を差す。彼女は、控えめな性格ながら孔が就任してきてすぐに彼と打ち解けた生徒である。成績もよく、術者である事以外は八千代に次いで彼を知る人物とも言えるため、否定的でも肯定的でも、論理的な答えを示してくれることだろう。そんな答えがこの話題には必要だ。
「わ、私は…」
「遠慮すんなよ」
「え、えと…私は、その…術者に関しては迫害するべきではないと考えています。なので、あの時はなんというか…気持ちが悪くて。もちろん、私たち人間に危害を加えようとする術者もいるのは分かってますけど、それでも、えと、八千代先輩も神崎先生も、とても良い人、だから…」
一見すると気が弱そうな彼女だが、その実芯はしっかり貫かれている信頼できる人物である。正直、彼女に否定されてもすんなり納得できる自信はあったが、彼女が味方であるなら、それはそれで心強い。




