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子曰く  作者: 神秋路
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春麗か ④

「どうだ?今となっては、術は習得しといた方が良いだろ?」


 孔は、波美に術を教えていた頃を思い出しながら勝ち誇ったように言った。彼女は始終「そんな事やりたくない、これまでのままが良い」と喚いて孔に苦労をさせたが、今ではすっかりそんな様子は見せなくなった。


「別に。普段から使える術なんてそんなに無いし。私はキョンシーなんて扱えなかったしね。これまでと変わらないわ」

「ってめえ…師匠の目の前で言いたい放題言いやがる…」

「師匠ったって年下でしょ」

「お前なあ…」

「ま、まあまあ…実際波美も実力は結構あるんだし結果オーライってやつじゃないかな」

「ったく、術が使えようが使えなかろうが危ない奴ってことには変わりないだろ」


 孔は、そうぶつくさ言いながら白衣の中から薬の入った試験管を取り出し、いつものように患部に振りかけた。それを見届けた波美は、少々自身ありげに挑発を仕掛けてみた。


「ねえ、そんなに言うんだったら、私と手合わせしてみる?」

「上等だやってやらあ」

「辞めなよ、一応ここは神域なの忘れてないよね?」

「神域だからこそ本領発揮できる奴が何言ってんだ。もし俺らが飛ばしすぎることがあったら、お前が止めてくれよ、凪」


 孔は笑って凪の肩を叩くが、凪本人からしたらたまったものではない。彼の月夜見が鎮座する境内のど真ん中で、魔女と道士が真っ向から勝負するなんて聞いたことがない。ヨミ自身は面白がって逆に彼らを扇動するだろうが、後始末をするのは他の誰でもない凪だ。もし、目の前の魔女と道士が交戦しているところを自分の母親が目撃でもしたら、どんなことになるのかなんて火を見るよりも明らかである。彼らはそれを分かっているのだろうか。分かった上でわざとやっているのなら、術者としての力を駆使してでも神罰を与えなければならない。


 あれこれと思案しているうち、二人は境内の広い辺りへ移動してしまった。今日が午後になっても人が来ない日だったことは、不幸中の幸いと言っても過言ではない。


「ち、ちょっとちょっと、やめろって真っ昼間から…やるなら夜に誰もいないところで頼むから」

「何よそんなに必死になって」

「そうだぞ、どうせここの神様も面白がるし、不都合なことなんて何もないだろ?」


 もう既にやる気満々の二人を止めるには一苦労する。孔の方は既に魔法書を開いて準備万端である。


「はあ…二人とも、僕のお母さんのこと忘れてないよね?波美は嫁いびりってやつを食らわされても

文句言えないし、孔は今度こそ出禁言い渡されてもおかしくないんだからね」


 凪の母親は今でこそ隠居生活を送っているが、今でもその権力は絶大である。昔からあまり術者としての力を使うことは無かったために能力自体もすっかり落ちており、能力だけの話であれば本来凪も怖がる必要はない。それでも凪が彼女に対して畏怖の念を抱く理由は、幼い頃から続く彼女とのいざこざにある。しかし凪は、その過去を全て記憶の奥の奥へしまい込み、何も無かったことにした。


 ふるふると頭を横に振って改めて二人に目をやると、波美は食らわされてもおかしくない嫁いびりの内容を想像したのか、へたり込んで酷く疲れたような顔をしていた。


「お義母さん…怖…」

「お前の中の嫁いびりってどうなってんだよ…」

「ちょっとの脅しのつもりだったんだけど…ごめん波美、言いすぎた」

「まあいくらあの母親でも、さすがに自分の息子の大事な人には手出したりしないよな」

「いや、嫁いびりが発動寸前なのは事実だよ。波美もよくお母さんの言うことに反発するから、二人の関係は最悪なんだ」

「前から思ってたけど、最悪な組み合わせだよな。俺と聖水以上だよ」


 凪はしゃがみ込んで波美の背中に手をやった。見るだけでは分からなかったが、微かに震えている。何をどこまで想像したらこのようになるのか知りたいところだったが、それどころではなかった。


「波美、大丈夫?奥で休んだ方が…」

「凪、そいつ笑ってんぞ」

「へ!?」

「ちょっと!空気ぐらい読みなさいよ!」


 何が何だか分からなくなって一瞬ぽかんとしている一瞬のうちに、波美は勢いよく立ち上がり、孔に噛みついた。状況が把握できるようになっても、まだ脳が体への信号を出せないでいる。彼女にまんまと騙されたときちんと受け止められるようになったのは、それから五分後の事だった。

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