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子曰く  作者: 神秋路
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春麗か ②

 近頃は魔女の少女が、元気な子供たちのために遊びに来てお世話をしてくれるので、とても助かっている。子供たちはお姉さんができたみたいだと大層喜んでくれているし、魔女の少女は子供たちの世話だけでなく波美の家事の手伝いをしてみたり、凪の母と過ごしてみたりと働き者であった。


「命ちゃん、頼めば何でもしてくれるからとても助かるのだけど、小学生の女の子に任せっきりでなんだか申し訳ないわ。お義母さんに何か言われないかハラハラするし」

「お母さんだったら、命ちゃんの事すごく可愛がってたよ。この間、用事があって別宅の方に行ったらすごく仲良さげにお茶してたし。おばあちゃんと孫みたいだった」

「本物の孫がいるのに何言ってるのよ」

「たぶん三人目の孫だと思ってると思うな。あんな嬉しそうなお母さん、見たことなんかあるのか無いのか分からないや」


 時計は十四時頃を指している。もうそろそろ子どもたちも遊び疲れて昼寝をしているはずだが、母家からはまだまだ元気な子供たちの声が聞こえる。なんだか珍しいので、耳を澄ましてみると時々聞き覚えのある男の声が混じって聞こえてきた。


 その声の主が誰なのかはすぐに分かった。


 無視してそのまま仕事を続けていると、子供たちのはしゃぐ声が収まり、今度はこちらに向かって足音が近づいてくるのが分かった。何の迷いも無く、その足音の主は併設された授与所の窓から顔を出し、少々興奮しながら声を掛けてきた。


「凪!聞いてくれよ!見てくれよ!」

「分かった、まずは見ようか?」


 思った通り、足音の主は幼馴染の神崎孔であった。


 彼は右手に何か銀色の箸のようなものを持ち、妙に反射して光るものをそれで摘まんでこちらに見せていた。近づいてよく見てみると、銀色の箸はどこにでもあるようなピンセットで、摘ままれていたのは少々血が付着したままのガラスの破片であった。


「…何これ?」

「はぁ!?知ってるだろ?!俺がこの間おっさんらに暴力振るわれた時の!」

「ああ、あの時の!」


 思い出したのは年末の忙しかったあの日。命の母が襲われているところに孔が割って入り、返り討ちに遭ったあの時。彼はいつも、何かあった時のために白衣の中にいくつか魔法薬が入った試験管を忍ばせているのだが、力強く蹴りつけられたときにそのうちのいくつかが割れ、破片が腹に刺さったという。彼はすぐに抜こうとせず、まず命の母を治療してからにしようとしていたようで、まさか今になってそれが出てくるとは思ってもみなかった。


「…まさか、今の今までずっとあのままだったの?」

「薬があったからできた事だけどな。正月に抜こうと思ったんだが、あの双子が邪魔してきて、『宮司さんに呼んで来いって言われた』だの抜かしやがったから」

「ああ、それは悪いことをしたね」

「けど、それも今日でおさらばになったんだ!こんなに嬉しいことは久しぶりだ!!」


 孔は更に興奮したようにピンセットを掲げ、悪役のような笑い声で笑った。薬や魔法で痛みを止めたり傷口の処置をしてはいても、腹に異物があるままなのはやはりストレスになっていたのかもしれない。

 …だが、きっと彼の中の横着が変な時に働いて、破片を抜くだけでもこんなに遅くなったのだろう、という憶測は心の中にしまっておいた。


「まあ抜けて良かったじゃないか。ところで、さっきまでうちの子たちと遊んでた?」

「命ちゃんが勉強終わりに遊びに行くって言ってたから、覗くつもりで来ただけなのに捕まったんだ。今は何とか寝かしつけてきた」

「あらあら、昼寝のお世話までしてもらっちゃって助かるわあ」


 凪の後ろからひょこっと顔を出して波美は言う。子供たちの声が途絶えたのは孔が珍しく子供の相手を最後までしてくれたおかげだったと気づいたのだろう。


「ついでに命ちゃんまで寝てしまったけど…あとはお前の母さんに任せた」

「それで良いよ。あの子はちょっと休まなきゃ。そっちで魔法を教えてるんでしょ?」

「教えてくれって頼まれて。実は、今日はついでに新しい魔法書を買ってきたんだ。俺も気づかなかった魔法もあるかも知れないからな」


 彼はそう言いながら近くの書店の紙袋を示した。そういえば以前、柳原先生の魔法書があると教えたことがあったっけ。彼にとっては痛い出費だったことだろう。


「このためだけに久しぶりに幻霧章を開いたよ…」

「幻霧…ということは変身か何かしたの?」

「お前の顔をしてレジまで行ってやったよ。柳原好きだっただろ?」

「あはは、とんでもないことをしてくれたね」


 そんなことをされては、柳原先生の新作を買うのにわざわざここから離れた書店にまで赴かなければいけなくなる。子供のときから通い詰め、本を買い続けることで自分好みのラインナップに仕上げてきたというのに…


「…なんでそんなに悲しそうな顔をするんだよ…冗談だって、悪かったよ」

「なんだ、それならいいや!」


 今後も安心して品揃えを調節することにした。

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