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子曰く  作者: 神秋路
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魔法章 ②

 これぞ我が意義…!


「これくらいで良いか…」


 久しぶりにまともな魔法をたくさん使ったことで、いつもならまだ出てこない睡魔がここぞとばかりに彼を襲った。それによる欠伸をしながら階段を上がっていこうとすると、ふと横目に懐かしい本を見た。子供の時、初めて手にして勉強した魔法書で、今はもう亡くなってしまった魔女の男から譲り受けたものだった。今と変わらず裕福では無かったので、満足に本を買うこともできないでいた時、その男が昔に使っていた本を譲ってくれたことを今でもよく覚えている。今となっては本というよりノートという風に見える物だが、当時の小さな自分にとっては腕いっぱいに抱える程の大きな書物だった。


「…青帝(せいてい)


 その男は、そう呼ばれていた。


 彼は三年程前に急死したが、その理由は聞いたことが無かった。孔が『天神』として名を馳せる前は彼が術者の中心にいたようだが、今はすっかりその名前も聞かなくなった。皆忘れてしまったのか、それとも言わないだけなのか…


 中をパラパラと捲ってみると、印刷された文字の他にびっしりと手書きの文字が書かれている。整った文字はその男、ミミズのような大きな文字は幼い孔が書いたものである。小さな火を扱う魔法、何百人物人間に幻覚を見させる魔法など、とんでもなく簡単なものから大人の魔女でも難しい魔法まで詰まっている。現代では、この魔法書の代わりに八千代の書いた魔法書が役に立っていることだろう。


 思い出に耽っていると、次から次へ懐かしいものが目に入るもので、気が付けば時計は午前を指していた。


 ちょっとした小部屋ほどしかない広さの地下室に、あふれんばかりの魔法書や本が詰め込まれているのは、それほど孔が必死に勉強した証拠でもある。彼はそこにある知識を全て自分の脳みそに詰めこんだ。そのあとは外の世界の知識を詰め込んだ。それでも彼の脳みその容量には余裕があった。彼をここまでに育て上げてくれたのは、確かにあの男だった。あの男こそ、術者の頂点に立つべきだった。


 それなのに、気づけば自分がそこに立っていた。

 まだ何も理解できていないうちに周りの仲間に祭り上げられた。

 彼らは言っていた。


「あんな男より」

「お前こそ」

「お前こそが」

「あんな男より」

「ふさわしい」

「ふさわしい」

「術者」

「全ての術者の師」

「あんな無能より」

「お前が」

「お前が」

「お前こそが」

「頂に立つべき」

「お前こそが全ての術者の世界を統べる者なり」


 何を言われているのか分からず。

 ただ言われるがままに。

 ただ謳われるがままに。


 自分は―――


「……」


 せっかく片付けた本がまた散らばってしまった。それを雑に片付けると、孔は静かに階段を上がり、地下室への扉を閉じた。


「ふう……」


 そうしてそのままへたり込んでしまった。

 このままでは、また聖水と凪のお世話になるところだった。


「まさか、聖水にハマったとかじゃないよな…」


 なぜそれまで思い出せなかったのだろう。

 あれだけ世話になった男を、どうして忘れることができたんだろう。

 忘れてはいけないことなのに。

 忘れてはいけない人なのに。


「青帝…名前はなんだったっけ」


 彼は思い出したかのように立ち上がり、研究室を経て自室へ戻り、そのまま明かりを消して眠っ

た。


 忘れていたことを忘れようとするかのように。

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