縁起の悪いもの ⑤
「お2人はまだ何も知らないままここに来てくださったと聞いています。ですから、凪がどうして突然倒れてしまって、その上私たちがこんなに落ち着いているか、理解ができないと思います」
2人はこくんと頷いた。話でしか聞いたことがない、神格の高い神様にフレンドリーに話しかけられて戸惑いから抜け出せないのだった。
「凪の神官としての能力は、私を含めた八百万の神々を神降ろしすることなんです。このおかげで、私たちは地上で好きに動くことができます。荒々しくて自分の力がコントロールできない神は特に、人間に降りて力を使えなくした状態でないとまともに地上で動くことができないのです」
「まるで須佐之男様が高天原に昇った時のようですわね…」
「まさにその通りですね。体を借りなければ、大衆に自分を認識させることも叶いませんし。今年の占いは、実は結構重大で…私が直々に表に出て、人々の様子次第では祭りも全て無くしてしまおうとも考えて、凪に降りさせてもらいました。気を失ったのは、その反動です」
幕の中に冷たい風が吹いてくる。倒れている凪に目をやると、ヨミの話の割には穏やかなあ表情をしているので、双子は安心した。
「いくら凪でも、孔と違ってただの人間ですから、神が入れば反動も起こします。まして、荒御霊が強い神なら特に。ですから、あの愚弟には凪には一切近づくなと釘を刺してあります」
その時一瞬、ヨミの表情の一切が冷たくなったのを2人は見逃さなかった。確証はないが、その表情が元々のヨミの表情ではないかと八千代は思った。
ぎゃあぎゃあと波美とリアルファイトを繰り広げていた孔が、波美の手によって雪の中に埋められて勝敗がついたとき、ようやく凪がくしゃみをして起き上がった。
「ああ、お目覚めですか、おかえりなさい」
「おかえりなさいは良いけど、気を失ってる人を気を失う原因になった側が目の前で野晒しにするってどうなの?」
「申し訳ありません、それまで面倒を見ていた波美が突然孔と自由組手を始めてしまったもので、人の仕事を中途半端に変わるのは良くないと思いまして」
「ごめんなさい、凪。孔がふざけたことを抜かすものだから」
「ううん、もう大丈夫。いきなりヨミが降りてきたときはびっくりしたけど、今回はそんなに酷くなかったから」
「今回は占いの結果を述べるだけの数分だけでしたからね。でも、症状が軽かっただけでも良かった。死なれたら困りますから」
「またそうやって人を利用するようなこと言って……」
「すみませんね、私はあまり人間とは関わってこなかった神様なもので。頭をひと撫でするのにも苦労します」
「いいよ。人間が神様に物申すなんておこがましいから」
凪は笑って言う。しかし、その顔にはどこか疲れが見え始めていた。
時刻は午前24時。新しい年が始まって2日目に差し掛かった頃。しかし、まだ境内では2日目がやってきていないように思われた。
そろそろ場の空気にも飽きてきたヨミは、仕事の続きをせねば、と社の裏の竹藪の中へ行ってしまった。そこにヨミが個人的に住んでいる自宅があるのだという。それを見届けた凪や波美は、祭りが終わったことでその片付けに追われなければならない、と動き始めた。
「ああ、そうだ。凪、八千代ちゃんと千代ちゃんを送らなきゃ」
まだ雪の中に埋められていた孔を引き抜きながら、波美は凪へ呼びかけた。
「死ぬ…死ぬかと…思った…」
「あらあら、こんなところにちょうどいい保護者が」
「何で俺なんだよ!!!??いつもいつも!!俺に押し付けて!!」
「わがまま言わないの!あんたの方がこの子たちと仲いいし、凪みたいな年の離れたおじさんに送られるよりだったら、2歳上の方が楽でしょ。学校でも会ってるんだし」
「おじっ……」
「でもこっちにも伊織さんがいるし、迷惑かかるだろ」
ああでもない、こうでもないと議論を交わしているうちに、当の双子は申し訳なさそうに口を開く。
「わたしたちなら大丈夫だよ」
「そうですわ。今までも2人でやってきましたから、夜道も心配ありませんわ」
「だめよ、これは大人の義務なんだから…」
仮にも人間の高校生の女の子を2人だけで夜道に放り出すことなど、その場の大人全員が許さなかった。凪は、ショックを受けたので何も考えられなかった。




