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子曰く  作者: 神秋路
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縁起の悪いもの ③

 よくよく周りを見てみると、境内の奥の方に何やら幕がかかっているスペースがあった。中は見えない。そろそろ祭事の時間だからと、凪や長谷川姉妹がその幕の奥へと入っていった。


「楽しみだね、お母さん!」

「そうね、楽しみね」


 命は、年相応の笑顔ではしゃいでいる。傍から見ると、残された孔達三人はまるで三人家族のように見えていることだろう。


 本当に、本当の『家族』としてこの祭りに来られれば…。


 そんなことがグルグルと頭の中を巡ったが、一切表に出ることは無かった。モタモタしているうちに、『見えない祭事』が始まる太鼓の音が幕の中から響いてきた。やがて、太鼓に続いて祝詞を奏上する凪の低いような高いような、不思議な声が聞こえてくる。何事もなく祭事が進められていく音をじっと聞いていると、なんだか別の世界に引き込まれたような、おかしな気分になってくる。


 凪の不思議な声は、別の祝詞も併せて約十分程続いた。彼もこんな声を出すまでに、色々なことがあったことだろう。


 凪の声の次は、幕の前で長谷川姉妹が神楽を舞った。さすが双子といったところで、まるで合わせ鏡のように、綺麗なシンメトリーとなって舞っている。


「わびしきわびしき月神子(つきみこ)

月を見る神夜の神

悲しき想ひは命の彼方に

無き命の奥の奥まで

隠しし思ひは懐郷の地へ

忘れぬ光の息吹くまで

わびしきわびしき月御代(つきみよ)

月は我が御代(みよ)御代知らせ

月の宿りしその瞳

狂気の月光浴びながら

いで

月神子月御代月詠みの

なんぢの眺めるその暦

(かしこ)き畏き月詠みの

その月暦詠みたまへ」


 美しい双子は、満月の光を浴びながら聴き慣れない歌も謡う。理系の孔では、その歌の意味は分からないが、きっとこの神社の祭神を謳ったものなのだろう、と勝手に解釈した。


 月占神社の祭神は、その名の通り月の男神である。孔も幼い頃から何度か会ったことがあるが、月の神様というだけあってその姿も同じ男とは信じられないほど美しいものであった。占いを得意とし、この祭りも彼が一年で一番占いに力を入れる機会だろう。

 ちなみに、しっかりとした確信は持てないが、先ほど見かけたそれもあの祭神だと思われた。気晴らしに散歩でもしていたのかも知れない。


「お母さん、わびしいってどういう意味?」


 大人の孔ですら分からない古文を、まだ小学生の命が理解できるはずもない。しかし、命が頼る大人二人の知恵を合わせても、正しい答えを教えることができなかった。


「そういうのは凪の方が詳しいから、凪に聞いたら分かりやすいと思うよ」


 などと面倒事は全て凪に押し付けた。


 やがて美しい舞も終わり、双子は幕の中へと戻り、代わりに正装姿の凪が現れた。手には見たこともない巻物であろう書物があった。

 ようやく今年のこの町の占いの結果が出た。その場の人々は今か今かと凪の言葉を待っている。


「……」


 凪は、ゆっくりと顔を上げた。その瞬間、彼の瞳が一瞬だけ煌めいたように見えた。


「吉報!」


 彼の精一杯の大きな声が境内に響き渡る。


「我が地は実りに恵まれ、人の子はその恩恵に包まれる!」

「…人の子だって、神様でも、私たちのことは見捨てるのねえ」

「いいや、ここの神様の占いはこれからですよ」


 この神社の祭神の占いの特徴として、『偏りがない』ということが挙げられる。何に関しても偏らない。吉報があればその分凶報もあるし、人間の占いが出れば、術者の占いもある。彼の見るいわゆる『暦』は何でも見え、何でも分かる、ある意味恐ろしいものでもあった。

 特に孔は、毎年必ずある凶報の占いの内容を聞くのが大好きだった。理由は本人でも分からないが、凪には「魔女史上最悪の性格の賜物」と酷評されている。


「凶報!」


 それが分かっている町の人間たちの間では、その一声だけで緊張感が走った。それを見た孔は密かに笑いたかったが、伊織や命のいる前でそんな非人道的なことはできないと我慢した。


「我が地は人の子も神の子も全て地に還る地と化す!全ては長い時の辛酸からの解放のために!」

「人の子も神の子も地に…?」

「お母さん、どういう意味?」

「道心さん、これって…」

「分からない…あいつ、何言ってんだ…?」


 その場の全員がどよめいた。今まで出た凶報の記録を見ても、このような結果は前代未聞だからだ。それはこの神社と長いこと寄り添ってきた当主を継いだ凪が一番良く分かっているはずなのに、彼はさも当然かのような顔をして次の吉報を公開した。


 それ以降の占いは、子供がたくさん生まれる年だとか、海が良く荒れる時期があるだとか、特に気になるようなものはなかった。きっと、他の人間も最初の凶報が衝撃的過ぎて他の占いの話など聞いていないだろう。


 そうこうしているうちに祭りも終わり、つかえている何かが取れないまま、人々はあ帰路についた。今ここで凪にどういうことかと聞きに行くこともできたが、彼の体のことも考慮したためか、皆そんなことはしなかった。


「きれいだったね、お母さん!」

「ええ、そうね」


 伊織と命はあまり気にしていない様子でおしゃべりをしている。孔はそんな二人の邪魔にならないようにこっそりと幕の裏に向かった。


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