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子曰く  作者: 神秋路
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母曰く ③

しかし男たちは悪びれる様子もなく答えた。


「だったのかって、もちろんそうに決まってるだろ。こいつ魔女なんだぜ?」

「お前、その魔女になんかされたのか?」

「されたされてないの話じゃないだろ?」

「魔女に限らず、術者なんて害でしかないのは、あんたも知らないわけじゃないだろう?今の時代、科学の力もどんどん大きくなって、今も残っている術者の力は衰えていく一方だ。それなら数を減らすなら今が好機だって誰もが思うのは当然のことだ。」

「……だから力が受け継がれていない術者が多かったのか………」


 この孔の小さな独り言は、その場の人間の耳にしっかりと届いた。それによって、男たちの気分を

さらに逆撫でするのに時間は要しなかった。

 数人の中の一人が、突然孔の胸倉を掴んだ。気が緩んでいた孔は、そんなことをされるとは予想だにしていなかったので、驚いて間抜けな声出してしまった。


「お前…術者だな?」

「…ってことは、俺たちのこと騙してたのか?」

「お前たちが勝手に騙されただけだろ、何でもかんでも術者のせいにするな、暇人。」

「てめえ…この女の仲間か?」

「ああ、血を分けた仲間だ。俺も魔女だよ。」


 孔の素直な白状に、男たちは更に激昂した。胸倉を掴んでいた男は、突然孔を投げ飛ばすと、後に続いて全員で先ほどまで女性にしていたことを繰り返した。孔自身は、幼い頃から慣れていたことなので、痛みについては何も思わなくなっていた。しかし、ガラスが刺さった時の傷口は開いてしまったし、眼鏡のレンズにもヒビが入ってしまった。白衣の中に忍ばせていた薬品の試験官も蹴られた時の衝撃で割れてしまって、今度は腹にガラスが刺さり、辺りには薬品と彼の血が広がった。それが原

因で、彼の意識は徐々に薄くなっていくのを彼自身も感じていた。


「…道心さん!」

「ダメだ命ちゃん!危ない!」


 見るに見かねた少女――命が、孔の元へ行ってこの事態を止めようとしたが、それを凪に阻止されて何もすることができなかった。


「ぐ…」


 「来るな」とこちらからも声をかけたかったが、うめき声しか出ない。思ったよりもことが大きくなってしまったし、どう収拾を付けたらいいのか…朦朧とする意識の中思案したとき、ふとあることに気づいた。


 ――凪は、なぜ初対面の命のその名前を知っているのだろうか。


 確かに凪の様子から初対面であることは確実だし、ここに辿り着くまでの間に名前を聞き出す余裕なんてなかったはずだった。それなのに彼は言った。


 「命ちゃん」と。


 まるで昔から知っていたような呼び方だ。


「っ!!」


 ガラスが刺さってしまった箇所に渾身の蹴りが入る。相手は自分よりも年上のようで、ガタイも良かったのでその辺の若者のそれよりもしっかりとした蹴りだった。ガラスは更に腹の中に食い込んだようで、鋭い痛みがさらに増した。


「…この害獣が……お前ら術者なんて、山の獣と同じなんだよ!!」


 もう一度蹴られる――そう思ったとき、その場が凍り付いたように静かになった。何事かと痛む体を無理やり動かして辺りを見回すと、凪が孔をかばうようにして相手に立ちふさがっていた。


「あんた…月占の宮司さんじゃねえか…」

「その節はどうも。お宅のお子さん、お元気ですか?七五三の時、親子三人でうちにいらしてましたね」

「んなこと、今はどうだっていい!あんたなんでこいつらをかばうんだよ?」

「なんでって…僕だって同じ術者だから。血は違っても同士ですから、かばうのも護るのも当然のこと。何かおかしいですか?」


 町の人間のほぼ全員と交流のある凪が相手では、男たちも動揺して出ていた手足がすぐに引っ込んでしまった。


 予想した通り、凪をここに連れてくるのは都合が良かった。信仰の根強い神社の信用ある宮司に手を打増などと罰当たりなことをする者はいない。それができるのは孔か、凪の母親だけだ。

 長年に渡って、宗教に携わる術者は貶められることも、迫害されることもなかったせいで、その者たちを術者だと知らない者が増えたのも確かだった。男たちがまさにそのようで、凪がなぜそのような言動をとるのか、全く理解できない様子を見せた。


「あんたおかしいよ…」

「宮司さん、そういえばこの間、境内に山の動物が入り込んできて困るって言ってましたよね?術者って、そういう害獣と同じって、世の中そういう認識で通ってるんですよ?」

「だから術者は本来見つけたら殺さなければいけないんです…でも、そこまで行ってしまうと非人道的だとか、憲法に関わってくるとかで未だにそれが実行できないだけなんですよ…」

「ああ~…そうなんですね。」

「でも殺してしまっても罪には問われないんですよ…だから、宮司さんが心配しなくたって…」

「僕は皆さんが殺人を犯してしまうのが怖くてこういうことをしているんじゃないんですよ。仲間が殺されるのを黙って見ていろとでも言うんですか。」

「で、でも…」

「『術者は山の害獣と同じ』なんですよね?それではどうぞ、僕のことも殴ってください。」

「!?」

「僕だけではなく、妻も、息子も、娘も、母も…どうぞ皆で殴って、蹴って、罵ってください。必要なら、腕や足なんか切ってくれても構わないし、目玉をくりぬいてくれたっていい。」

「な、なに言ってるんだよ…」

「気でも狂ったのかよ…宮司さんともあろう人が…」


 さすがの孔も、凪のこの発言に少し引いたが、きっと凪がここまで言うには訳があるのだろうと思った。


「狂ってるのはどっちですか。術者を忌み嫌う理由もわかりますが、これではあんまりです。罪になるならないは人間が簡単に決めていいものではありません。」


 男たちはそれ以上何も言わなかった。


「…あんたがそんな人だとは思わなかった。」 


 そう捨て台詞を吐くと、そそくさと全員その場を後にした。


 凪は静かに振り返ると、


「大丈夫?大丈夫そうには見えないけど。」


 と、こちらに手を差し伸べた。


 孔は何とか手を取り、半分這いずるようにして近くの塀まで行って体を預けた。すぐに命が走ってきて、心配そうに孔の傷や血の跡を見つめていた。

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