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子曰く  作者: 神秋路
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天才と天災 ⑦

「そんな気は二度と起きない」

「何やら決心しているんだねえ。トラウマでもあるのかい?」

「さあ、どうだと思う?」

「わたしは巫女の血を引いているだけの人間であって神様ではないから、他人の心を読むことはできないよ」

「神様も人の心は読めないらしいよ」

「それでは、先生にもあの子の気持ちは分からないね」

「…何の事だ?」


 手が止まった。また魔法が暴発しそうだったのだ。


「先生が悪いわけでは無い。そこは勘違いしないでくれないかな」

「…あのさあ、そうやって訳分からん脈絡で話を進めるのやめてくれるか?」

「おっと、これは失礼。先生はわたしなんて足元にも及ばない程の天才と聞いていたから、これくらい分かると思っていたんだけど」

「小説家の言うことは分からない」

「…そうか、そういうことか、なあんだ。まあつまり、あの子のあの態度には意味があるということだよ。単なるわがままだけで構成されてはいない。それはもちろん、わたしとて同じことだけれど」

「それは聞いてもいいやつか?」

「もちろん。先生だってよく知っているはずだよ」

「先生はお前らと違って人生経験が豊富だから、先生が知っている気持ちはたくさんあるんだ。もったいぶらないで噛み砕いて教えてくれないか?」

「うーん、つまらない人だ」


 彼女は本をパタンと閉じた。華やかな表紙が目に映った。


「わたしとあの子は二人で一人。気持ちも二人で一人分。孤独も二人で一人分」


 まるで小説の文章のように淡々と呟いていく。双子であればありきたりなような、そうでもないような内容だったが、生い立ちを考えると彼女たちには相当重いものだったのだろう。


「わたしはそれを文字にした。あの子は頭の中にしまい込んだ。だけれど二人してたくさんの災いを呼んできた。わたしは人間の心を支配した。あの子は自分という人間そのものを動かした」


 つまりは二人の行動の裏目だった。彼女たちは生い立ちのせいで出来上がった環境に対応できず、けれどそれを誰かに伝えることもできなかった。そのため、八千代はその気持ちを永遠に残る物語にして世に流し、千代は頭の中に詰め込んで人生経験とした。その裏目として、八千代は周りの人間からの言葉に敏感になり、千代はそれが態度に出たせいで嫌われ者になった。同じ術者の孔に出会ってから何か変わると思ったが、当然ながら口にもしないものだから伝わる訳もなく、そもそも孔自身に何かできるわけでもないので変化が起きることは無かった。


「あの子が先生にしばらくあのような態度を取らなかったのは、わたしと違って淡い期待を抱いていたから。けれど、それは自分からの押し付けに過ぎないと現実を知ったんだ」

「だから突然あんな態度を取ったのか。裏切るというか…敵を作るような」

「そうだね」


 今日が初めてなので別段そんなにダメージが無かったが、彼女たちは深い深い傷を負っている事だろう。それは、孔には計り知れない。


「先生には多大な迷惑をかけたね。わたしたちはとんだ疫病神だったろう」

「そんなことは…」

「年上に対して敬語は使わないし、揚げ足は取るし、家には勝手に入るし、恥はかかせるし…」


 八千代は本を胸に抱いた。まるで自分自身を抱きしめてるようにも見えて、怯えているとも見て取れた。


「別に俺は…お前らは大事な同胞だと思ってるから。それが必要だったんならそれでいいよ」

「…」

「俺はそうやって受け入れてくれる人がいなくてな。見つけた時にはもう随分遅かったから。早いうちに若い術者は守ってやらないと本当に術者が消えてしまうよ。俺は、何としてでもそれだけは止めたくてね」


 彼女はしばらく何も言わなかった。彼女の膝元に何やら水滴のようなものが落ちたように見えたが、気づかないふりをした。


「若いって…どうせ先生だってわたしたちと二歳しか違わないくせに」


 彼女は笑った。

 今までのような笑い方ではなかった。

 本当の本当に、何か面白いものでも見たかのような、本物の笑顔だと思った。

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