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子曰く  作者: 神秋路
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天才と天災 ⑥

 しばらく車に揺られていた時、孔は凪との話を思い出し、それとなく千代に話題を振ってみる事にした。相変わらず、黒い服の人の自分に対する警戒心の強さを感じたが、会話するだけなら睨んでくる事も無くなったので、信用されてきている、と確信した。


「あのさ、月占神社って知ってるか?」

「ええ、もちろんですわ。このあたりでは大きい神社さまですもの。小さい時にお母さまに連れられて、そこの神官さまに何度かご挨拶しに行ったことがありますわ」

「俺さ、その神社さまの現当主さまと幼馴染なんだけどさ」

「あら、そうでしたの?前の宮司さまの時からご挨拶していたのですけれど、現当主さまと言えばご子息という事ですよね?あの方は物静かで素敵な方だと幼心に思っておりましたの」


 それを聞いて、平和ボケした笑顔をこちらに向けている凪を想像したが、やはり千代が言っている内容と離れていたのでぴんと来なかった。


「あーそういうのは良いんだけどさ、その当主さまが人手を欲しがってて、お前ら姉妹の話をしたんだけど。そしたらお前らが良ければ仕事をお願いしたいって言ってたんだ。お前ら巫女の末裔だし、実際に力が継承されていなくてもその辺の素人よりは良い仕事できるはずだと思ってるんだけど、どうかな?」

「…そうですわね……確かにわたくしたちは一応幼い時から巫女の教育は受けていましたが…ちゃんとお役に立てるかは分かりませんわよ?」

「それで良いよ。お前らならちゃんとやれるって。何も特別な生贄の儀式でもやれって言ってるわけじゃないんだから…あ、今すぐに答えを出せってことは無いから、八千代とご両親に相談してみろ」

「分かりましたわ。前向きに考えてみますわ」


 そのセリフ、断る奴の常套句じゃねえか…と突っ込みかけたその時、車は校門前で止まった。


 この日はすべてのコマに授業が入っていて、ゆっくりと物を考えている時間はあまり無かった。もうすぐ冬休みなのだから、そんなに真剣に授業を行うことも無いだろうという生来のものぐさな考えにも至ったが、気を抜くのはやめておくことにした。

 三校時目は千代がいるクラスの選択の授業だった。いつもは遅れてやってくるか初めからサボるかする千代が、その時は珍しく一切遅れずに授業に出ていた。孔も千代を見る目が一瞬変わりかけたが、そこで千代の本性は現れた。


 授業をする事に気は抜かなかったが、微妙なところで授業が途切れるのは誰でも嫌なもので、孔も長期休みが明けてから授業を進める事にした。そのため、長期休みまでの時間稼ぎとして、簡単な実験でもやらせれば良いと考えて、とある実験をさせていた。自分はいつも魔法を使うので、魔法とうまく融合するように、正規の方法で薬を扱わないでしまっている事がバレないように説明をする。しかし、説明したものがどこか違っていたらしい。千代に指摘されてしまったのが始まりだった。


「先生ぇ~、そこはまずこの薬を入れるのが先なのではありませんこと?」

「あーうんごめんねえ、先生ものぐさだからどうしてもショートカットするんだよねえ~」

「それではいけませんわ。科学者たるもの、その道を究めた者なのでしたらきちんとしたやり方を生徒にお教えくださいませ」


 化学式を間違えて表記してしまえば、


「先生、それは存在しない物質ですわ。それでは、先生が本当にマッドサイエンティストだという事が証明されてしまうのかもしれませんわよ。新しい物質を作ることができるという可能性が見えてしまっていますから」


 特性の強い薬の話をすれば、


「それは滅多に見られない珍しい物ですわよね?あまり一般の世界でも話題に上がることは無いはずなのですけれど…それに詳しいということは、先生はもしかしてその薬品を所持していらっしゃるのですか?」


 どんな話をしても事あるごとに口を挟み、下手をすれば孔の立場も危うくなるような発言を繰り返す千代に、孔もだんだんイライラしてきた。その授業では何とか耐えきったが、次はどうなるか分からなかった。


 昼休み、いつものようにちょっかいを出しに来た八千代にそのような事を話すと、八千代はさも当たり前かのような顔をしていた。


「だから言っただろう?あの子はわたしのように能力が偏ってないから、どんな話をしても勝負事とするなら勝ち目はないんだよ」

「…でも、俺に恥かかせるような事まではしなくてもいいだろ?危うく俺が術者か、もしくはマジで危ない科学者だって思われかけたんだぞ」

「どちらもその通りだと思うけれど?」

「俺の立場分かってる?」

「分かっているよ。でも、仕方ないけれど、それが彼女の本性なんだよ。むしろ今までそのような姿を見せなかった事の方が驚きだけどね。」

「そんなもんなのか?最初にお前から話を聞いたときは、嘘だと思ったもんだが」

「そうだねえ。話に聞く限りではわたしに接するのと同じように接していたようだけど?」


 彼女はそう言いながら読んでいた本のページを捲った。それはハリーポッターでは無くなって、これまたあまり有名ではない作家の本になっていた。しかし、その作家の描く物語はかなり興味深かったと記憶している。


「あの子は先生と会話するのは楽しいようだよ」

「そうなのか」

「もちろん、特別な情は無いよ」

「俺だって無いさ」


 アルコールランプの紐が燃え尽きそうだった。火を消して何となく白衣のポケットを探ると、見越したかのようにアルコールランプ用の新しい紐があったので、そのまま付け替えてまた火をつけた。この流れで煙草も取り出しそうになったが、何とか耐えきった。

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