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子曰く  作者: 神秋路
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天才と天災 ④

「あんたがお国に、年寄りや子供だけでも徴兵を取り下げてくれって言ってくれたおかげで、私たちは親や子供や小さな姉弟を殺さずに済んだけれど…このままではまた徴兵の命令が下るかもしれないの。」

「…俺がそんなことを。」

「そうよ。あんたってすごいのよ。」


 彼女曰く、孔は誰も逆らえなかったお国に直接向かったとか、術者たちの兵を一人でまとめて、考え付いた戦略もすべてうまくいったとか、これまた現実味のない話ばかりで、孔自身もつまらなくなってしまった。


「…ところで、あんたがいなくなったからあんたのとこは今頃大騒ぎよね…何も分からないままでも良いから、とりあえず皆のところに行ってあげなさい。」

「い、いやそれは…」


 面倒なことになりそうなので、断ってとっととそのから去ろうと一歩踏み出したとき、足の力が一気に抜けた。倒れる――と思ったその時には、目の前に見慣れた天井が広がっていた。


「はあ…」


 夢の中のはずなのに、地面の踏み心地や微かに吹いていた風の感じが何だかリアルで、さっきまで本当にあの場にいたような感覚がする。それでもまだ眠気がするのでもう少し寝てやろうと布団の中にもぐりこんだ時、玄関の扉が開く音が聞こえた。舌打ちするのを我慢しながらのそのそと玄関の店へ向かうと、笑顔の凪がまた自分の家のように近くの椅子に座って家主が来るのを待っていた。


「お前か…」

「大家が来てその反応は失礼じゃない?…それにしても酷い顔と恰好してるねえ。ニートみたい。」

「実際就職前は怪しい薬売ってるニートだっただろ。」

「いつもは休みの日でも早くからスーツと白衣着こんで仕事したのに今日はどうしたの?それ高校のジャージ…」

「毎日スーツで寝てると思ってたのかお前…」

「君のことだからそうだと思ってた。」

「お前失礼だから今日はやっっすいスーパーの紅茶を提供してやる。」


 と、孔は白衣だけ羽織ると、部屋の暖房を付けたり紅茶の用意をしたりとせっせと動いた。家中冷え込んでいたので、温まるまで動いてごまかすことにした。一方凪は、寒さに異常な耐性でもあるのか、顔一つ動かさずにスマホで誰かと連絡を取っているように見えた。きっと仕事を抜け出した嫁への言い訳でも送っているのだろう。


「で、今日は何用?家賃なら前の滞納分も今月分も払ったはずだけど。ギリギリ。」

「いや、遊びに来ただけ。」

「仕事しろよ。」

「もうすぐ年末年始だから忙しくてやってられないよ。」

「バイトは?」

「いっぱい来た。とっても嬉しい。」

「じゃあ人手は十二分にあるじゃねえか。」

「馬鹿なの?助勤の巫女さんだって素人の学生さんばかりなんだからできることも限られるし、そんな人たちに神社の運営に関することなんて任せられるわけないだろ?任せてもかわいそうだし。」

「じゃあ早く戻ってお前が仕事しろよ…」

「それじゃあ本格的に忙しくなる前に僕が壊れちゃうよ。親戚だってそんなにいないんだし…」

「あれ、お前のお袋さんは?生きてるよね?」

「勝手に殺さないでくれる?僕が当主になってからは自分から隠居して別宅に住んでるよ。」

「…ほーん、あのヒステリックなカーチャンがねえ…」


 電源を付けたストーブが大きな音を立ててやっと火をつけた。


 凪は幼い時から両親と自分の三人暮らしで、家系図的に見ればかなりの大家族になるが、関わりが深い親戚は少なく、冠婚葬祭や長期休暇の時期以外に親戚が揃うことは無いらしい。だから、この忙しい時期も手伝いに来てくれる親戚はそんなにいない。


 凪の父親は彼が大学に入ったばかりの頃に病死し、大学を出て地元に戻ってくるまでは年末年始以外は母親と親戚が協力して何とかやってきた。元々母親の方はどうやったらあんな息子が生まれて来たのかと思うほど厳しい人で、凪は物心ついた時から既にそれに泣かされてきた。その上そんなことがあってからさらに母親に対しては頭が上がらない、と彼は困り顔で良く言うのだ。そんな母親も今はすっかり老いてしまったので、表には出ず裏方で手伝ってもらうだけにしているのだが、未だに下手なことをすると厳しく叱られるので気は抜けない。それで疲れて遊びに来た、と凪はついでに漏らした。


「それでも母親だからね、色々あったけど捨てることはできないから。」


 散々恨み言も言ってきた相手なのに、自然にそんなことを言えるのは、父親からの遺伝なのだなと孔はため息を漏らした。そこで、ふとあることを思いついた。



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