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子曰く  作者: 神秋路
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天才と天災 ②

(孔、どうした?さっきからぼーっとしてるけど…八千代の事か?)

(いや、そうとも言えるしそうとも言えないような…)

(そんなに生徒の事を思うのは熱心な事だが、こんな時くらいいつもみたいに羽目外したって良いんだぞ)

(いや、どっちかっつーと家の方が心配かな…)

(…なんだか分からないけど、早く帰った方が良いならそれでも良いからな?)

(…ありがたいけど、せっかくだからもう少しいるよ)


 結局それなりの時間になるまで、校長のつまらない自分語りや清水の偏りすぎた術者の話を聞き流して過ごした。ちょうど良い頃になると、適当に言い訳をしてさっさと会場を出た。武藤もすぐに帰るらしい。


 寒い夜道を駆け足で抜け、森の奥を目指す。玄関を確認してみると、鍵はちゃんと掛かっていた。安心してそのまま家の中へ入ると、奥の廊下から明かりが漏れている事に気づいた。


(もしかして消し忘れたか?)


 なんとも思わず廊下に上がると、明かりは寝室のものだと分かった。孔自身は気づいていなかったが、多少は酔っていたらしく、彼の警戒心はほとんど無くなってしまっていた。


「ぅわ??!!!え???え!!??」


 彼は驚きすぎて後ずさり、その拍子で転んでしまった。

 部屋の布団には、帰ったはずの八千代が堂々と仰向けに寝転がり、腕を伸ばして何やら分厚い本を読んでいた。彼女は、孔の驚きの声には動じず、ゆっくりと彼の方を見た。


「お帰りなさい。少し遅かったね。ちょうどハリーポッターシリーズが二週目に突入しようとしていたところだよ」

「何してんの??!!何してんの??!!」

「何って…読書だけど」

「はあ?!!!人んち勝手に入って人の布団で勝手に読書!!!??前代未聞だぞ!!」

「寒かったから入らせて貰ったよ。裏口だからって気を抜いたら良くないと思うな」

「!!!」


 孔は慌てて裏口の方へ向かった。扉自体は閉まっていたが、鍵はばっちり開いており、ため息が漏れ出た。しっかりと鍵を掛けると、部屋に戻って八千代の目の前に座った。


「あのさあ」

「うん?」

「不法侵入って知ってる?」

「でもわたし達術者にとって法はあって無いようなものだよ」

「お前はまたそうやって…」

「許しておくれ。わたしは、もう少し魔女のことを知りたいんだ」

「じゃあ他の魔女を当たればいいだろ…お前ほどの情報収集能力ならすぐに見つかるんじゃないのか?」

「君程、魔女の知識を持った魔女はいないよ。また言うなら、君程、術者の知識を持った魔女はいないよ」

「…」


 孔はそれ以上何も言えなかった。褒められて嬉しかったわけではなく、そんなことのために自分の元にくっついて歩いていたのかと呆れたのだった。けれど、彼女に失望する事は無かった。


「確かに、こんな事をしたのはとても申し訳ないと思っているよ」

「じゃあなんで…」

「…君は、自分の役目は何だと思う?」

「はあ?なんでまた…」

「…わたしはね、自他ともに認める文学の天才だよ。本を出している事こそは、君や家族以外には一切言っていないし、バレてもいない。だけれど、この文才だけは皆知っている」

「あ、ああ…そうなのか」

「正直、わたしより巧い文章を書ける人間はそう滅多に現れないとさえ思っている。何せ結果は出ているからね。君もそういう自信はあるだろう?」


 孔は頷いた。彼もまた、彼女と同じように自分を上回る化学者はいないと信じて疑わないからだ。


「自信が付くと、今度は自分ができる事がどんどん分かってくる。その中で、わたしはわたしの役目を見つけた」

「その役目ってなんだよ?」

「術者を記録に収めて後世に伝えること」


 なるほどと思った。彼女ほどの文才であれば、分かりやすく物事をまとめることもできるだろうし、物語にして残すこともできるだろう。…と言っても、孔自身は彼女の文章をまともに見たことが無い。


「…とまあ、言い訳だという事に変わりは無いけれど、わたしはそんな理由で君に付きまとっているし、君の家にも入った。本当にごめんなさい」

「別に怒ってはないけど…親御さんは心配するんじゃないか?」

「そうだね。でも、勉強していると言ってあるから、多分大丈夫だと思う。…けど、そろそろ寝ないとね」

「帰るなら送るぞ?荷物も多いし。…あ」

「どうしたんだい?」

「千代がお前から借りてたって、この本預かったんだ」


 そう言いながら、仕事用の鞄から本を取り出し、八千代に差し出す。彼女は「なんだ、そんな事か」とでも言いたげな顔をしながら受け取った。


 八千代は、孔のお言葉に甘える事にして家の近くまで送ってもらうことにした。八千代の持ってきた本達は二人で手分けして何とか抱えて運んだ。

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