巫女双子 ⑧
一方孔は、今日の授業の準備をするべく、そのまま職員室に向かった。教材の準備を名目に化学室で薬を作っても良いのだが、寒い事とまだ頭が働いていないためにやめておこうと思った。
職員室はすっかり暖房が効いており、既に出勤していた他の教員もちらほらと見える。あんなことがあった後だが、ほとんどの人は孔を術者の一人だとは疑わずに変わらず接してくれるため、挨拶も業務連絡も堂々とする事ができる。ダラダラとパソコンで参考になるプリントを作っていると、武藤が出勤してきた。彼もなかなかの早起きだと、孔はつくづく思う。
「おはよう、孔」
「ああ、おはよう。担任は忙しいんだな?」
「いや、それもそうなんだけど、今日はほら…」
武藤は何かを飲むような仕草を見せた。
「え?」
「ほら、今日金曜日だろ?もうすぐ冬休みも始まるからって、早めに忘年会します~って…」
「…ああ、忘年会か……」
「何があるか分からないから、仕事残したくないと思って」
教員内での飲み会というのは割と定期的にあった。孔も人間関係はそれなりに良くしたいという事で、たまに来ることにしていた。今回の忘年会に関しては得体の知れない圧力を感じていたので、参加せざるを得なかった。
武藤ともかなり仲良くなり、飲み会に行くことも苦痛では無くなった。彼は酒は苦手だったが、そういう空気になってしまえばとことん流される質のようで、これまでも全ての集まりには参加してきていた。孔自身は酒も嫌いじゃないし、ヘビースモーカーでもあったので、ふらふらとついて行って武藤の分の酒をこっそり飲み、灰皿を山盛りにするだけで良かった。そんな彼と違って武藤はすぐに酔いつぶれて何もできなくなるので、自分の仕事はなるべく済ますようにしていると武藤は言った。
「たまに来るのが無茶苦茶に早いと思ったら、そういう事だったのか」
「うん。孔と違ってド下戸だからね」
「そんな事言っても…人間の飲む酒は魔女には少し足りないな」
小声で、内緒話でもするかのように言う。
「煙草は素直に好きなんだけど」
「孔は煙草吸い過ぎなんだよ。どうしたら二時間で灰皿に山ができるの?一日に何本吸ってる?」
「就職してからは一箱の半分にも満たなくなったけど、就職する前は三箱とか吸ってたかな」
「そんな事してたら、年取った時…」
「どうするんだ」と武藤が言いかけた時、職員室の扉が勢いよく開いた。驚いて扉の方を見ると、千代が血相を変えてこちらに走って来るのが見えた。




