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子曰く  作者: 神秋路
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巫女双子 ⑦

 次の日の朝も、長谷川家の車は孔を乗せて学校まで運んだ。相も変わらず黒い人たちはこちらに厳しい視線を向けていたし、千代は千代で昨日以上のわがままっぷりを見せつけてくれた。


「あーあ、毎日こう寒いとたまりませんわ」

「おう、そうだな」

「この本もつまらないし、良いこと無しですわね」


 そう言う彼女の手には、一冊の小説があった。孔自身もかなりの本好きなので、興味を持った。その本と本の作者はあまり有名どころではないが、ある作品が映画化してかなりの人気を誇ったために、その作品名を言えば誰でも理解してくれる物だった。一見ひょうきんだが文章自体は割と古風で、明るい部分に暗いものがひっそりとこちらを窺っているような…そんな物語を書く人で、かく言う孔もかなりのファンだった。残念ながら柳原なんとかこと八千代の作品では無かったが、その本の趣味は八千代のもので間違い無さそうだった。


「それ八千代から勧められでもしたのか」

「ええ、面白いものだからって。でも、この作家はわたくしの趣味に合いませんでしたわ。陰気臭くて古臭いし…」

「八千代の本は読んだことあるのか?」

「ええ、もちろん。八千代の原稿をまず最初に読んで添削させるのはわたくしなのです。わたくしたち、バラバラに見えて実は息は合いますから、結構良い作品ができますのよ。…でも、八千代の趣味も私には少々合いませんけど」


 彼女は肩をすくめながら言う。確かに、彼女にはその手にある本や八千代の世界観とは全く違うタイプの人間だ。相性が悪いのも頷ける。


「そういえば、昨日八千代から連絡があって、新しい小説を書き始めたとかなんとかって言ってましたわ」

「昨日もそんなこと言ってたな。新しい小説の題材が浮かんだって。仕事が早いこと」

「それだからでしょうか……八千代ったら昨日の夜突然、私の本を貸せと言うんですのよ」

「資料に使うんじゃないのか?」

「でも、『作中に魔女や魔法使いが出ている物や魔法が題材になっている作品を片っ端から貸せ』って、わたくしびっくりしてしまって…」

「ああ…本格的なんだな」


 千代はとうとう本を投げ出した。


「わたくしも小説が読めない、嫌いというほど頭が悪いわけではありませんから…好きですけど、これは本当に読めませんわ。もっと、わたくしを置いていかない本が好き」

「だからって投げ出すこたないだろ。その作者、俺は昔から好きだったんだけどな」

「あら、それでは差し上げますわ。わたくしにはもう必要ありませんもの」

「もう持ってるよ…(魔法書に埋まってるけど)」

「あら、それではこれはどうしましょう」

「借り物だろ?なんで処分する方向になってんだよ。何なら俺が預かって後で八千代に渡そうか?」

「それなら、お願いしますわ。わたくし、休み時間は暇じゃありませんの」

「勉強でもしてんのか?」

「いえ、ティータイムを」

「担任に報告するからな」


 孔はやはり、すぐにでも今の仕事を辞めてしまいたいと思った。彼女のように好きに本を読んで、好きに紅茶を楽しみたい。何が悲しくてこんなわがままな子供を相手にしなければいけないのか…彼は、昨日の昼休みに簡単に八千代の願いを聞き入れたことを後悔した。


 車は校門前に停まり、孔は何か噂になるのが怖くて降りたくなかった。しかし、これ以上黒い人に睨まれるのも嫌だと思い、大人しく降りるしかなかった。幸い、まだ早い時間帯だったので校門前に人はいなかった。


「それでは先生、ごきげんよう」


 あくまでも優雅に挨拶した千代は、教室に向かっていった。

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