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子曰く  作者: 神秋路
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巫女双子 ⑤

 それからは変わらず授業を進め、変わらず授業を終わらせた。少し遅れたのは予定外だったが、困る程でも無かったのが救いだった。

 放課後、もう一度八千代が孔の元を訪ねた時、彼女は笑いながら声をかけた。


「さっそくあの子に打ちのめされたようだね」

「危うく職を失うところだった……」

「その時はわたし達も巻き添えにしてくれて構わないよ。むしろその方があの子にはいい薬かも知れないからね」

「さすがの俺もそんな事はしないよ。ただ、この手の噂はすぐに広まるからな…次の仕事が探しづらくなる。そうしたら、また稼げない薬屋稼業に戻るしかないな」

「そういえば、先生はどうして先生になったの?」

「あれ、話さなかったっけ?」

「以前は、何故薬を扱っているのかとしか聞いていなかった」


 そういえばそうだったか。彼はあまり深くは考えていなかった。


「どうしてだい?」

「まー生きる金が欲しかったってだけなんだけど…」

「…ああ、先生らしいね。じゃあお金が溜まればここから去るのかい?」

「ああ、近いうちにそうなると思う」


 元々一人暮らしで、贅沢もそうしない彼が生きていける分の資金は、集まるのに苦労はしない額さえあれば充分だった。半年もみっちり働けば、しばらく働かなくても良いくらいの貯金は貯まったので、キリが良いところでやめてしまおうと計画も立て始めていた。貯蓄をするのも大切だが、今はろくな魔法が使えない状態なのは変わらない。その解決にも努めなければいけないので、そんなに長く働いても仕方がなかった。


「寂しいね。先生が行ってしまうと、私たちは本当に孤立してしまうね」

 

 八千代は珍しくシュンとした顔をした。いつもはなんだか感情が無いとさえ感じさせてしまうような表情をしているのに。


「お前も寂しいって思う事があるんだな」

「もちろん。私はロボットでは無いからね」

 

 その瞬間、孔が持っていた試験官の薬が爆発した。ガラスは割れ、赤い液体と一緒に薬品が彼の腿の辺りにボタボタと零れた。白衣もきちんと着ていなかったので、スーツにそのまま薬品と血の染みが広がる。手にはいくつものガラスが刺さっているのに、彼はそれを抜こうとも、周りの掃除もしようとせず、ただ黙ってその光景を見ていた。

 八千代も何も言わなかった。


「…俺はどうだったかなあ」

 

 孔はつぶやいた。


「感情なんてちゃんと考えたこと無かった」

「感情は考えるものではないよ」

「そうかあ…」

 

 そうして彼はやっと散らばったガラスの片づけに取り掛かった。八千代も手伝おうとしたが、孔はそうさせなかった。


「…先生は感情の起伏が激しいようだけど、それでも自分の感情については考えた事が無いのかい?」

「そんなにかな?」

「半年前のあの時も、そして今も。普段はあまり何も考えていないようだけど、その実、いつもいつも休まず何かを考えている」


 彼女は「違う?」という顔をしている。確信している顔だ。


「まあ考え事はよくするけど」

「そう。先生は多分、術者のことをいつも考えているよね。そればかりを考えているから、術者の話題が出てしまうと、きっと感情が爆発してしまうんだよね」

 

 確かにそうかも知れなかった。あの時も、薬を飲んでまで何も思わないようにしていたのに、あと少しで我慢の限界が来るところだった。今も、完全に無意識ではあったがきっと孔の感情が荒くなった事で魔法が暴発したのだろう。


「…そうだ、良い事を思いついた」


 八千代はまた、突拍子も無い事を言い始めた。

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