巫女双子 ④
「それは助かった。これでわたしの負担も少し軽くなるよ」
八千代はしてやったとばかりにほくそ笑んだ。
午後の授業は、偶然千代のクラスに当たった。八千代と千代は、双子とはいえクラスは別にされてしまったらしい。
授業内容は、前に八千代のクラスでやったものと同じ。八千代は文系でもきちんと授業を受けていたが、さて、妹の方はどうだろう、と興味があった。
けれども、本鈴が鳴って少し経っても彼女は来なかった。
「…えーと熊野と杉山と大塚どこ行った?」
「あいつら多分ベル鳴る直前までバスケしてましたよ」
「じゃあ5点ぐらい引いとこ」
「え、先生それはでかいよ」
「いや、俺はちゃんと言った。授業中寝ても、提出物提出しなくても、ノート取らなくても良いから、出席だけはしとけって。出席は嘘吐かないからな。するかしないかだけで大体のやる気が見えるんだよ。遅れるんなら、きっと覚悟はできてんだろうな」
孔は出席簿に記録を付けながら笑った。化学をこよなく愛する孔にとって、彼の授業に「遅れる」という行為は、彼の中のどこかで許せないものがあるのだろう。授業中眠ってしまっても、ノートを取らなくても、その分は後からどうとでもなるし勉強すればテストも問題ない。ノートは写して、提出物も出してしまえばその分の成績も付くが、出席だけは信用に関わるのだと彼は言う。
「至極当然のことを言ってるだけだけども、遅れて来るのがまた質が悪くて、来る気があるのにじゃあ何で遅れてくるんだよって個人的にイライラする」
要するに、彼の気分が害されるから、という理由だった。
改めて出席簿を確認すると、もう一人いない事に気づいた。
「あ、長谷川は?」
すると、数人の女子生徒らがざわつき始めた。あれやこれや、何か話をしているが声を抑えているのでいまいち聞こえなかった。
「心当たりでもあるのか」
「いや、心当たりってゆーか…」
「留学する前までは昼休みは中庭にいたから、たぶん今日も中庭だと思うけど…」
「なんか今日は見当たらなかったよね?でもまーあの子別の授業でもあんなだし、気にしなくていいんじゃない?」
いやでも、そんな事をしてしまうと、八千代との約束が早速果たされない事になってしまう。…とは言えず、孔は大人しく、しかししっかりと点数を引いて授業を始めた。
「えーと、じゃあまずキョウチクトウの毒を…」
「先生、私たち殺し屋になりたいわけじゃないです」
「ごめんそれ昨日キョウチクトウ植えた話だった」
冗談なのか本気なのか分からない発言をしたその時、化学室の扉がガラガラと音を立てて開いた。姿を現したのは、男子生徒三名だった。
「熊野杉山大塚ァ!おっせえな何してたんだよ!」
「すんません、バスケしてました…」
「バスケすんのも良いけど、せめて俺の授業だけでも遅れないようにしてくれよ。そうすれば適当に成績つけてやるのに。こんな先生滅多にいねーぞ、ありがたく思え」
孔はねちねちと叱ることは嫌いなので、これ以上授業遅れることも考えてさっさと彼らを席に着かせた。
そのすぐ後に、『彼女』は優雅に教室に入ってきた。
「長谷川、十点引くぞ」
「あら先生、先生の秘密を世の中にリークされてもよろしくて?」
「分かった、とりあえず理由だけ話して座ろうか。何で遅れた?」
「それはわたくしの勝手ですわ。口出ししないでくださいませ」
「あ、あーうん、悪い」
と、孔はこっそり更に点数を引きながら謝罪した。




