魔女の呪い ②
「いい加減加工しないの? この間も誰かから「原始的すぎるからやめろ」って言われてなかったっけ」
「ほっとけ。考えてもみろよ。魔女が「ハイ、どうぞ」つって渡してきたのがカプセル剤だったら逆に怖いだろ。俺が人間だったら絶対ヤバい方の薬だと思うね」
「そもそも普通の人間は、調子が悪くなったら魔女の薬じゃなくて人間の医者を頼るもんだよ」
「いや、まあ、それはそうとして……人間の薬みたいにした方が一般的だし、やろうとしたこともなかったわけじゃないんだ」
彼の薬の特徴としては、彼が人間のやり方で作った薬品に彼自身の魔法を直接混ぜることだった。人を治すための薬も同様で、用途に合わせた魔法を溶かすことで効力を上げた。だから、彼を知る客は彼の薬をよく頼った。
代わりに、一般の世の中では彼の薬を「危険な薬」「魔女の毒薬」などと呼ばれ、敬遠を超えて持つだけで犯罪者になり得る代物にまでなっていた。中には、「魔女の呪い」とさえ呼ぶ者も出てしまい、彼の薬で死んでしまったなどという噂まで広まったこともある。
最も、そんな事実は決してあり得ない。彼の伝えた使用法と量を無視して使ってしまった、唯の自業自得が招いたものである。彼をどうしても悪者に仕立て上げたい人間たちの心の中が、現実に現れた姿だとも言える。
それでも彼がこうして薬を作り続けていられるのは、彼の薬を必要とする者がいることと、彼のその能力を守りたがる者もいるからだ。
「常連に液体の方が飲みやすいって言われてから何も考えなくなったけどね。ただ、水みたいな感覚で飲めてしまうし、面白いくらいすぐに治ってしまうから、間違えて飲んでしまうことも多いみたいだけど。おかげで俺の風評も絶えないわけだよ」
「でも君はちゃんと紙に書いて一緒に渡してるわけだし、注意事項をきちんと読むのは薬を使う側としての義務なんだから、君は悪くないと思うんだけど」
「どうだろうね、もう何が何だか分からないよ。昔から俺──俺たちの言葉なんて聞き入れてもらえたことがなかったんだから。今はもう諦めて好きにさせるさ」
「孔、あのさ──」
凪には、珍しく孔が自分の抱く小さな娘よりも、もっともっと小さな存在に見えた。自分たちがまだ幼いあの頃と同じ姿をしているようだった。
「もう少しで薬ができる。後で正しい使用法を教えてやるから、子供の命が惜しかったらちゃんと守れよ」
「……うん、もちろん」
「お前まで敵に回したら、俺はもう生きていけないからさ……」
孔の母親は、中世の時代、西方のとある国で繁栄した魔女の血を引く生粋の魔女だった。主にヨーロッパで流行った魔女狩りから逃れるべく、ほとんどの魔女の一族はバラバラになってしまった。そのうちのいくらかが東へ東へと流れ、この国に辿り着いたのが孔の母親の先祖である。
渡ったのは明治から大正の頃とされていて、当時から現代に至るまで、一族の者はひっそりと血を受け継いできた。しかし、今すぐに確認できる魔女は孔だけで、同じ国にいる他の身内は今どうしているのか、母親にもすっかり分からなくなってしまっていた。