もう諦めて ⑥
「そんな物を見て何を学べと?!上手な差別のやり方でも覚えろと言うのか!」
「長谷川さん!静かにしなさい!」
八千代の近くにいた教師が止めに入るが、彼女は聞く耳を持たなかった。
「術者をより深く理解できると思ってみれば、こんなつまらない物を見せたかったのか!」
「つまるかつまらないかは、君が決めることでは無いよ。これは社会に出るときに必要な知識なんだ」
「術者を貶めることに何の必要性がある?社会に何の得がある?!」
「強い力を持つことは危険なんだ。全ての術者が力をコントロールできるとは限らないだろう。そんな事も含めて、私たちは警戒していかなければならないんだ。何もストレス発散のためにしている事では…」
「後付けの言い訳にしか聞こえない!その内容の薄さでは理由付けにならない!そんな言葉、詭弁にすらならない!」
「…君は何が言いたいんだ?」
「こんな不愉快極まりないもの、二度と世に流すんじゃない!こんなもの見せたところで何の学びにもならない!お前達こそ、この社会に必要無い!」
「これは、ただの洗脳に過ぎない!即刻ここから出ていけ!」
「長谷川!何を言っているんだ!」
そろそろ、堪忍袋の緒がプチプチと切れ始めてきた教師が彼女を何とか止めようと動き始めた。しかしその時突然、八千代はプツリと糸が切れたかのようにそのまま倒れた。それを見てまず動いたのは孔と武藤の二人であった。
「待ってください、先生」
「どうしました?神崎先生」
「その子に触れないでください、私が診ます!」
孔は意識が無い八千代に駆け寄ると、まずその様子を見た。顔は真っ青で、呼吸も荒かった。医者では無いので、何かの病気なのか発作なのか判断することはできなかったが、周りの人間に触れさすことはさせられないと確信した。
「…どうですか?」
知らないうちに野次馬が集まり、孔の言葉を待った。ステージ上の高官たちはどんな顔をしているか分からなかったが、心配をしているようではない事は分かっていた。
「とりあえず、ここにいては悪化するだけです。私と武藤先生が保健室に連れて行きます」
「えっ僕…」
「保健医も必要ありません。残りの皆さんはどうぞ続きをお楽しみください」
などと嫌味ったらしく言い放つと、八千代を抱き上げた。
その子は、信じられない程に重さが無かった。
保健室は体育館を出て左、少し進んで右に曲がるとすぐの所にある。一番奥にあったベッドに横たわらせると、八千代は安心したような表情をした。
「大丈夫なんでしょうか…」
「さあ…私は医者では無いので、何とも…」
八千代の担任でもある武藤は、孔よりも心配をしているらしい。大丈夫か、大丈夫かとしきりに心配をしていた。




