もう諦めて ⑤
「最後にメジャーな術者である外来種の魔女ですが、これらは一番難解な術を使うとされています。頭の切れる個体も多く、その力は下手をすれば科学技術では太刀打ちできないと言われています」
(ふーん…知らなかった…)
「ですがそう言われる割には弱点が多く、大体自由を奪えば何もできません」
(…耳が痛い)
「特に効き目のある物としては、教会で使うような聖水が挙げられます。魔女とは元々、悪魔崇拝をし、悪魔と契約を交わした女だとされています。それは今でもその血には悪魔の力が宿っていると言われています。ですから強い魔法が使えるのです」
「神崎先生、これも本当なんですか?確か神崎先生は魔女でしたよね」
「…すみません、今まで生きてきて、まさか自分の血に悪魔の力が宿ってるなんて初めて知りました……」
幼い頃から、自分の一族に関する事は母親から散々聞かされて来たものだが、母親も知らなかったのか、知る必要は無いと判断したのか、そんな事は一切教えてくれていなかった。それとも、子供が勉強熱心だったため、もう知っていると思ったのかも知れない。
数多の知識を蓄えていても、自分のことをあまり知らなかったという事実に打ちのめされ、孔は目の前で繰り広げられているヘイトスピーチの事などどうでも良くなっていた。
「魔女は本当に気を付けてください」
壇上の高官の声が不思議と体育館中に響いたように良く聞こえた。
「あれらは呪いを得意とします。ただの魔法だけならまだ良かったのですが、呪いをかけることで私たちを操り、不幸にさせようとするとの話が世界中で見られます。魔女は海外にも広く存在していますので、その数も他の術者と比べてかなりの数だと考えられています」
ドクン、と心臓が高鳴った。図星を刺されただけでなぜ動揺したのか、馬鹿らしい、と孔は考えるようにしたが、どうもそれだけとは限らなかった。
(まさか、薬が切れたのか?いや、まだ最後に飲んで十分しか経ってないのに…)
「それでは、今度はこちらの映像を見て頂きます。少し残酷なシーンもあるかと思いますが、そのような歴史があったという事を理解して頂ければと思います」
という前置きと共に流されたその『映像』は、孔にとっては特に目も当てられないものだった。白黒だったのでかなり前のもののようだったが、その画面の中では凄惨な光景が流れていった。
巫女らしき少女に、人間が寄ってたかって石を投げつける。道士らしき男は誰かと争ったのか、必要以上に痛めつけられている。腕が切り落とされ、顔面も原型を留めていない。占い師らしきまだ小さな少年は、手を繋いでいる男とは親子関係には見えないため、きっと親がいない。それを良いことに、少年を拾った人間は彼を男色の相手として売り飛ばした。孔だからこそ、深くその光景を理解することができた。それが言葉にできない程に辛かった。自分たちの先祖はこうして虐げられて生きて来た。人間を退くことができる力を持っているというのに、それでも人間に逆らうことが叶わず、黙って従うしかなかった。それは次第に世界中で当たり前の文化となり、更に彼らの居場所を無くしていった。だから人間たちを止められるものはもういなくなり、現代でもこうして迫害される存在のままでいる。
最後に映ったのは、どこかの戦場のようだった。これは白黒ではなく割と新しい記録のようで、孔もどこかで見覚えがあると思った。でも、思い出せなかった。そこは戦場のはずなのに、兵士らしき者は一人も見えない。その代わり、術者の物らしき集団が陣を組んで必死に戦っていた。一番最初の進軍なのだろう、倒れている者はまだほとんど見えない。でも、初めだからこそ一番死者が出る。映像でも、どんどん術者は殺されていく。それなのに怖がる生徒たちはいない。皆食い入るように前を見続けている。こういう時、いつもならちらほらと話し声が聞こえるのに、この時だけは一切聞こえなかった。
孔はもう耐えられそうになかった。薬も効かず、鼓動だけがどんどん早まっていく。
もう、どうなっても良かった。どうなっても良いから、早くこの地獄に終止符を打ちたかった。彼が白衣の下に隠し持っていたある薬を取り出そうと動いたその時、代わりに事を成してくれたのが八千代だった。すくっと立ち上がって、ステージの上でふんぞり返っている高官達を睨み付けた。
「くだらない!」
彼女の声は、先程の高官の声より、一層体育館中に響いた。それまで映像に釘付けだったその場の全員が彼女を見た。




