もう諦めて ④
昼休みが終われば、全校生徒達がダラダラとさも面倒そうに移動する。教師たちもだんだん職員室から出て行く。孔はそのままその場に残ってサボってしまおうと考えていたが、校長が先手を打って念押ししてきたので参加せざるを得なかった。
話を進めたのは政府からわざわざ来たという高官で、なんだか偉そうな雰囲気を漂わせていた。
(政府もお暇なんだな。こんなガキに何を教えに来たんだか)
孔はそう高を括っていたが、実際の内容は信じられないものだった。まだほとんど事情を知らない生徒に、先ほどの清水が口走ったものをそのまま生徒に植え付けるような…。
「術者とは、私たち人間には使えない力を持ち、大昔から存在している人種のようなものですが、その実、私たちのような人間を苦しめてきた卑劣な人種で……」
聞くに堪えないふざけた話ばかりが広がる。事実とは全く違う話が出てくる事もある。ご丁寧にスライドまで作って、更に分かりやすい差別を刷り込もうとしている。
まるでヘイトスピーチそのものとしか思えないのに、それを咎める者はいない。術者の否定派であろう者たちは皆満足そうに話を聞いている。
正に地獄だった。
「皆さんがご存じの通り、術者の種類は様々です。種類だけではなく、使う力も起源も全て違います。そのため、弱点も違います。これから術者への理解を深めて貰うために詳しくその辺りを教えていきたいと思いますが、皆さんはもう昔から聞かされている事だろうと思いますので、難しいことはないはずです」
などと抜かす。孔はもうほとんど怒り心頭だったが、ここで手を出してしまうとせっかく凪が見つけてくれた仕事をめちゃくちゃにすることになるために、必死になって抑えていた。なんならこっそり自作の薬を飲み、精神を鈍らせて感情の起伏が起こらないようにもしていた。
「まずは神官や巫女、僧侶などですが、かつては他の術者と同じような扱いを受けていました。しかし、宗教に関わる者を貶めることは道徳的に良くないとされたため、今となってはほとんど術者としての存在はありません。この術者たちを侮辱などしてしまうと法律違反となってしまうので、くれぐれもお気を付けください。また、これらには他のものと比べて力は無いため、怖がる必要はありません」
(……俺平気で凪に馬鹿とか言っちゃった)
「次に陰陽師、道士ですが、これらは実に厄介で……」
「…神崎先生、この話本当なんでしょうか?私が学生の時から比べると、話の内容がどんどん飛躍していて過激なんですけど…」
あまりの差別加減で、話を信じられなくなったのだろう。隣にいた武藤がコソコソと声をかけてきた。孔もあくまで冷静を保ちながら話に乗った。
「嘘も多いですねえ。特に今の『実際に神官らに力はない』というのは…」
「ですよね。例えば凪は確か、神様を体に宿らせることができるんでしたよね?昔見せてもらいました」
武藤は懐かしそうに言うが、孔は「よくあんなものを見られたものだ」と驚いた。
「ええ、凪で言ったらそうでしょうね。術を使えないのは後から神官になった者だけです。正当な神官の継承者なら、多少の術は持っているはず。もっとも、近頃は簡単な術を使えるように人間出身の神主を育成する所も増えているそうですが……」
これは凪から聞いた情報だが、凪からすれば「ただの人間が神官の術の真似事をしたところで、大して役立てることは無い。むしろ足手まといになるので金の無駄」らしい。それを考えると、改めて人間たちのしている事が酷く滑稽で愚かしく思える。きっと、武藤も同じ事を思っただろう。
それから占い師や神父など、話は外来の術者へと進み、とうとう項目は最後の一つとなった。




