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子曰く  作者: 神秋路
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もう諦めて ②

「ですがあれは彼女が勝手に付きまとっているだけで…」

「あはは、別に何も疑ってませんよ。ただ、彼女は周りに興味を示さないので、あんなに生き生きとしているのはとても珍しくて…」


 そうか、この男はあの女生徒の担任だったか。孔は勝手に一人で納得した。


「ですから、一言お礼を言いたくて」

「いや、私は何も…」

「それでも良いですから。神崎先生が申し出を引き受けてくださらなければ、あの子は今までのままでしょうから」


 武藤は頭を深々と垂れる。そのような扱いすらも受けたことの無い孔は、どう答えればよいのやら分からず


「そういえば、お仕事そのままでしょう?私なんかの相手をしてる場合ではないと思いますよ」


 そのまま武藤を追い出した。



 その日の帰りは少し遅くなった。大した仕事はないし、早めに済ませてしまうのでいつもなら定時で帰ってハエトリグサにゆっくり餌を与えてやる事もできるのに。家に着いた頃には夜空に星たちが敷き詰められている。近頃の忙しさのせいで庭の植物も生え放題で枯れている物も見られる。


(…仕事なんか探すんじゃなかった)


 などとぼやきながら、家の中に入ってすぐにベッドに倒れこんだ。


 確かに財産は0に近いし、そんな状態のまま今までのような自営業を続けていたら、まともな生活なんて夢のまた夢になってしまうだろう。かといって本業を疎かにしてしまっては元も子も無いのではないか。今のところ土日には確実に休めるように手は打ってあるので、全くできない事は無い。それでも、自分が家を留守にしている間にかなりの客が来ていたのも知っている。土日に時間も取れない客もいる。

 こんな状態がもう数ヶ月ほどは続くのかと思うと、もうゆっくり休んでいる事もできない。いっそ眠って意識を手放して、何も考えられないようになってしまえば良いのに。ハエトリグサも自分もお腹を空かせている。けれども何もする気は起きなかった。相も変わらず同じ音を鳴らす森にでさえ苛立ちを感じた。


 明日は授業は無いものの、午後にはなんだかよく分からない講話があるとかで、何も関係ないのに出席しろなどと理不尽な事を言われた。だから、簡単に欠席することも叶わなかった。その話を伝えてきたのが校長だった事もあり、何か裏があるとしか思えない。そのせいで更に倦怠感が彼を襲った。


「…何だ講話って。講話するまでも無く物事を教えるのが親の仕事じゃないのかよ」


 疲れているくせに眠れないままあっという間に時間は過ぎ、出勤する時間になってしまった。ダラダラと支度をし、無気力なまま学校へ向かった。学校がある町までは電車に乗らなければならない。学生時代から使ってきた電車ですら、乗り過ごしてしまうところだった。


「あっ…おはようございます、神崎先生」


 職員室に入るなり、武藤が何か言いたげに声をかけてくる。それ程までに孔の顔が酷かったのかも知れない。


「…おはようございます」

「来たんですね。今日は来ない方が良かったのに」

「来て早々それですか…午後のことでしょう」

「そうですけど…まさか、何の話をするか聞いていないんですか?」

「ええ、聞いていませんね。なぜ私には関係ないのに参加しなければいけないのか、納得がいきませんけどね」

「でも、先生はここの出身ですよね?なら…」

「いや、確かにここを卒業はしましたが、まともに通ったのは入学して半年だけですから。実際何もわかりません」

「そうですか…」

「一体何があるんですか?」

「…聞かない方が良いですよ。神崎先生は特に」


 武藤は目を伏せた。知的好奇心が旺盛な孔は、そんなことをされてはむしろもっと知りたくなってしまう。


「なんですか。もったいぶらないで早く言ってくださいよ。今更何があったってどうとも思いませんって」

「…聞いても後悔しないでくださいよ」


 武藤の口から聞いたそれは、『術者に対する理解を深めるための講話』だった。

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