小説家のお言葉 ③
「いや…そうじゃなくて、例えば魔女とか、占い師とかそういう血は引いてないのか?」
「血は引いているよ。引いているだけ」
彼女はそれだけ答えた。教頭の遠藤も同じタイプだったが、案外そのような人は多いのだろうか。孔は、自分との関係が良好なただの人間以外とは全く関係を持とうとしてこなかったので、大抵関わるのは客か同胞のみ。そもそもそのような人間の存在を知らなかった。それは以前出会った命も同じで、命のような事例を持つ者を実際に見るのも初めてだったのだ。
(井の中の蛙大海を知らず、か……)
少々奢り高ぶっていたのかもしれないと内心反省した。
「よく分からないけれど、今時わたしのような人間も珍しくないんだよ。驚いてるようだけど」
「ああ、みたいだな。つい最近気づいたよ」
「ちなみにこの学校にもちらほら術者の血を引いてる生徒や先生はいるみたいだよ。多分、お互い隠しあってて気づいていないと思うけど」
「うーん…かもしれないと思った人はいたけど…外れてたらと思うと恐ろしくて声なんかかけられねーよ」
「だろうね。流石のわたしも少しばかり怖気づいているよ。だから何も無いように振る舞っているよ。作家だということも隠して」
「…お前、何の血を引いてんだ?」
「母からは巫女だと聞いているよ。けれど、月占の橘とはあまり関係が無いようだね。調べてもみたけれど、このあたりの小さな村で崇められていた巫女が始まりだとか。時代が進むにつれて、魔女や占い師に続いてどんどん国内の術者も差別の対象になって来ただろう。それに伴ってわたしの家もどんどん廃れてしまって今じゃただの一般人の家になってしまっているよ。外面はね」
「ふーん…お前んとこも大変なんだな」
「…というと、先生の家もそうなのかな?」
「あ…ああ、うん、まあ」
実際、孔自身自分の実家がどうだったかすらほとんど覚えていない。妹がいたのかどうか覚えていないのと同じように、思い出そうとしてもあと少しというところで全部分からなくなってしまうのだ。親子共々酷い仕打ちを受けていたのは確かなので、きっとまともな精神ではいられないような気もするが、母親が精神を病んでいたとか、そういう記憶もない。すべてが曖昧で、矛盾していた。だから、そう答えるしかなかった。




