小説家のお言葉 ②
「……」
「………」
「まだ残ってたのか。もう遅いんだから帰りなさい」
「……」
「黙ってないで早く…」
「先生は人気者なんだね。思ってたのと違う」
「…は?」
「もっと根暗で、一人を好むと思ってた」
「いや、根暗で一人の方が好きだけど」
その前にこいつ失礼じゃねえか。
そんな気持ちでいっぱいで、手に持っていた試験官を思いっきり投げつけそうになった。
「じゃあどうしてあんなに人に囲まれて、それでもって嫌な顔一つしないのかな?」
「…『一人が好き』と『人が嫌い』なのは違う」
「そんなの詭弁に過ぎないよ。本当はちやほやされるのが好きだったり?」
「だーーーーーーーーーーっっっっうるせえなお前は!帰れって言ってんのが聞こえね―――のかよ!」
「ほら。本性が出てきたね」
その一人の生徒は次から次へと揚げ足を取っていく。それがさらに孔の機嫌を逆撫でし、状況は悪化していくばかりだった。
制服を見るからに女子生徒のようだが、髪の毛はベリーショートになっているし、話し方からもあまりそのような雰囲気は感じられなかった。しかし、ただの生徒ではなさそうなことは見て取れ、孔は発狂しながらも彼女の様子をうかがっていた。
「わたしは、先生がこうして一人になるのをずっと待っていた。だけど、皆全然帰らないものだからイライラしているんだ。そこは許してくれないかな」
「イライラしてんのはこっちだっつーの…しかも先生相手にタメ口とはいい度胸じゃねーか」
「そんなこと言って。本当はわたしたちとは五つの差もないくせに」
「五つは大きいだろ」
「では厳密に言うけれど、先生はわたしとは二つしか違わないんだよね?」
「っ…なんで本当の年齢知ってんだよ……」
「わたしが先生を知っているから」
「……!!」
衝撃だった。
年齢も詐称したし、何なら彼を知っている彼と同じ世代の人間たちは、もうこの学校のある土地すらからも離れているはずで、校長や教頭から聞かない限りその情報は出てこないはずなのに。まさかこの早い段階から……。
目眩がしそうだった。
「大丈夫。誰からも聞いていないよ。元々興味があったものだから、個人的に調べていたんだ。先生や、神官と道士の橘のことも良く知ってるよ。わたし自身術者ではないんだけどね」
「…名前は?」
「うーん、先生なら柳原と言ったら分かるんじゃないかな」
「柳原…ってあの??」
「そうそう。いやあ、ああいうタイプの本を出すのは初めてだったから、何か不備が無いかずっと気になっていたんだ。もう読んでくれたかな?」
「いや、金が無くてまだ買ってないけど。友人が見つけたようで俺にその話をしてくれたよ」
「ああそう。じゃあ、読んだら感想聞かせてね。役に立てたら嬉しいから」
「…お前、何者なの???」
「何者って…ただの学生だけど…ああ、訳あっていくつか本を出させてもらっているよ。先生も見たことあるんじゃないかな」
それはただの学生といえるのだろうか…というツッコミは置いておいた。




