縁起の悪い月宮にて ⑨
地面に散らばった石の破片を集め、星流に持ってきてもらった器に移した。石は、もう魔力を無くしてしまったのか、本当にただの石のようになってしまっていて、区別するのに苦労した。
その間、ヨミは孔と星流が地面に這いつくばって破片を集めているのを眺めているだけであった。
「お前も少しは手伝えよ」
「嫌です。触りたくありませんし、片腕に屈めと言うのですか」
「俺たちを見つめてるだけなのが気に食わない」
「見つめてるだけなんて、そんなことありませんよ。二人とも後ろがお留守なので見張りをしているだけです」
「そうですよう、片腕のヨミ様に変な姿勢はさせられませんっ」
「はいはい……神様ってのはどいつもこいつもわがままなんだから」
「私と星流の二柱しか見たことがないくせに。魔女はとことん傲慢ですね」
魔女と神様の間に火花が走る。止められる者がいないと瞬時に判断した星の神様は、互いの意識を逸らさねばと慌てて話題のすり替えを試みた。
「そ、そういえばっ、そういえばなんですけど、この石を集めたらどうしましょう? またヨミさまが管理なさるのですか?」
その言葉を聞いてすぐに反応したのは神様の方だった。
「この場所で管理するには一番安全だと思われますけど、私はこれ以上受け入れるわけにはいきません。嫌な暦を見ましたから」
「だからって押し付けるのか? お?」
「そうではありませんよ……私が持っていると良くないと出ているのです。場所を貸し出す分にはいくらでも力になりますが、私や星流が管理するというのはどうもかなり危険なようで」
「そうなのですか? 私もダメなのですか?」
「ダメなのです。凪でも波美でもダメなのです。所持でも、保管でも、触れて良いのは魔女だけということでしょう」
「それはつまり……やっぱり、俺が持っていなくちゃならないってことか」
「魔女のものですから、魔女が持っているべきだということですね。あの石も、もう一つの方も、中に人がいましたから、お世話しなさいということでは?」
「まさか。大体が人間だっただろ。贖罪でもしろってことか」
「もとより魔女のせいで出来上がったものです。この破片もあなたが持ち帰って研究なさい。好きでしょう?」
「俺が好きなのは魔法と薬学だってば……」
破片が入った器を受け取り、まじまじと見つめる。軽く振ると、カラカラと音が鳴る。本当に魔力まで無くして、ただの石ころ同然になったようだ。
「……ま、やっぱり俺が持ってるのが筋ってもんだよな」
ゆっくりと立ち上がりながら、破片をまとめて布に包もうとする。その時、布の中に入った石の破片が一瞬だけ光った。それに気づいたのはヨミだけである。
「待ちなさい、孔!」
「うわっ」
ヨミは咄嗟に孔の手を払い、石から距離を取らせた。せっかく集めた石は、布ごと飛ばされてもう一度地面のあちらこちらに散らばる。しかし残念がる間もなく、細かい破片たちがそれぞれ光を放ち、自ら一点に集まり始めた。
その光は、これまで何度も見てきたあの縁起の悪そうな、汚い紫のような色をしていた。
「なんで……もう魔力はなかったのに」
「これは魔力じゃない、私の神力だ……!」
「待て、コイツ神力でも動けるのかよ!」
眩い光は徐々に薄れ、次第にその姿が浮かび上がってくる。
そこに立っていたのは、先程とは違う女──少女とも言えるくらいの見た目の人間だった。彼女もまた、額にあの石を埋め込み、ボロボロで丈の短くなった着物を着て、黒く長い髪を振り乱している。
「誰だあの女?」
心当たりはないか、反射的にヨミの方を振り返る。しかし彼は何の構えも取らず、ただ立ち尽くして少女を見つめているだけであった。




