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科学教師の転生記  作者: サムライ
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無骨な剣

「・・・さん、シノギさん!起きてください!」


「はっ・・・はい」


すやすやと眠っていたシノギを起こすミリアの声が早朝の家に響く。

起こされたシノギは眠気とまどろみの中で返事をした。

完全には開ききらないその目で窓の外を見るとまだ朝日すら顔を出していない時間で真っ暗だった。


「仕事ですよ!」


「こんな時間からですかぁ」


シノギはすがすがしいミリアの笑顔をみながらふらふらと立ち上がり大きな欠伸をする。


「ほら、さっさと準備してください」


「はい」


準備といっても荷物なんかはないので服を着て最後に白衣を羽織る。

ふと気になったシノギは自分の服の匂いを嗅ぐが、まだ大丈夫かと安心する。

シノギが一着では臭いや衛生的な問題が出てくるので早急に買わなければ、などと考えていると部屋の中においしそうな匂いが入ってきた。


シノギはおいしそうな匂いにお腹をさすると、そそそっと居間の中を覗き込んだ。

そこには昨日のスープの残りと思われるものが三つ、湯気を上げて並んでいる。


「ん?・・・シノギさん顔洗ってきてください、ご飯はそれからですよ」


部屋を覗き込むシノギに気付いたミリアは苦笑いでそういった。

シノギは「はいっ!」と返事すると小走りで外へと向かう。

顔は外で洗うのが普通らしい。


「ふぅ」


シノギの寝起きの顔に冷たい井戸水がしみる。

まだ若干残っていたまどろみは綺麗になくなり、さっぱりとした。


「お兄ちゃん、おはよぉ」


「ん、おはよう」


シノギは後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには目を擦りながら出てきたアリサの姿があった。

その場にしゃがみこんでアリサと目線の高さをあわせると、笑顔でおはようといって頭を撫でる。


ジャバジャバ・・・。


「んばっ!今日も元気にがんばるぞっ!」


「うおっ!」


顔を洗った途端にまるでさっきとは別人のように元気になったアリサを見て、シノギはビックリする。


「お兄ちゃんも朝ご飯食べてモリモリがんばろー!」


「お、おー!」


スキップで家の中に入っていくアリサの後ろを歩く。

昨日と同じようにミリアは一人座って待っていた。

部屋に入ってきた二人を見ると「さ、食べましょ」と席に座るように促す。

三人が席に着くと皆食べ始める。


日本の「いただきます」や「ごちそうさまでした」のような言葉を言うという文化はないようで、皆がそろえばそれぞれ食べるのが当たり前のようだった。


「あ、シノギさん」


「?」


シノギが幸せそうな顔でスープをすすっているとミリアに名前を呼ばれる。

ミリアのほうを向くと下を向いて何やら取り出していた。


ゴトッ。


「これは・・・?」


机の上に置かれたのは一本の剣だった。

装飾は控えめで無骨な印象を受けるその剣は全長約一メートルほどで、刃は刀のように片方にしかついておらず更に長方形という、まるで肉切り包丁を縦に伸ばしたかのような独特な形状をしていた。


「お父さんが持っていた剣です、これは差し上げるので使ってください」


「えっ、でも僕、剣なんて使ったことないですよ?」


シノギは突然のことにビックリする。


「・・・魔法使えますか?」


「見たこともないです」


「えーと、これから街に行くので魔物に襲われたら守って欲しいんですけど」


「魔物っ・・・お仕事ってそれですか?」


魔物や魔法の存在。

ゲームみたいな世界だなとシノギは苦笑いする。

ゲームでやるなら楽しいが、自分の身に降りかかってみると迷惑なものだ。


「はい、荷物を持っていただくのと、いざとなったときの護衛を・・・」


「なるほど、がんばります!」


泊めてもらっている身でさすがに出来ないとは言えないのでシノギは剣を握る。

「大丈夫だろうか」といいたげなエレナの視線が痛かった。


「ちょっと外で練習してきますっ」


シノギは急いでスープを平らげると、スーツのベルトに剣帯をつけて外に飛び出す。

修学旅行で買った木刀を握ったことがあるくらいで、もちろん本物の剣なんて握ったことはないし実際に見るのすらはじめてだった。

それに化学オタクのシノギは自他共に認める運動音痴だ。


シャー・・・。


刃と鞘が擦れる音がして、ふっと腕に重みがかかる。

鞘から抜けた剣の刃は、遥か向こうで今まさに昇ってきている朝日に照らされてきらりと輝いた。


「重いな・・・」


刃は肉厚でおそらく一・五キロほどの重さはあるだろうと思われた。


「・・・やばい、これどうやってふるんだ?」


シノギは剣術など知らないので、見様見真似で振り回すことしか出来ないことに気付く。


ブンブンブン、ブン、ブン・・・ブン。


「はぁ、はぁ・・・とりあえず筋トレからか」


シノギは少し振っただけで疲れてしまう自分のひょろひょろの腕を見ながら、苦笑いで呟いた。

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