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1話

 

 カシャアーーン


 朝っぱらからアヴァロン伯爵邸では茶器が破壊される音が響く。


「ちょっとセバスティアン!誰がこんなお茶用意しろといったの!」


 キレッキレのお嬢様、アメリア様が茶器をひっくり返す。


「わかっていないわね。あなた、私付きになって、どれ位たつの?」

「二年です」


 嬢様の従者である私は、銀縁眼鏡の縁をすっとあげ、神妙に答える。どうでしょう?私はあなたの従者として長続きしているほうですよ?

 こころなしか胸をそらす。


「今日は、どう考えてもコーヒーの気分なの。見てわからないの?馬鹿なの?淹れなおしてきなさい!こんど間違えたら首よ!首!」


 彼女は傲慢に言い放つと豪奢な金髪を振った。エメラルド色の瞳は氷のようだ。しかし、その表情には16歳の少女の幼さを残している。


「首と申されましても、私の雇い主は旦那様で……」


 言い終わる前に枕が飛んできた。難なく避けるとお嬢様は手近にあるものをぼんぼん投げてくる。はいはい、いつもの癇癪ですね。なれたものだ。しかし、次に投げられたのは、割れた茶器の破片。これ以上は洒落になりません。私はお嬢様に足蹴にされながら急いで片づけた。


 ちなみにお嬢さまの朝はいつもいっぱいの紅茶から始まる。


「申し訳ございません。すぐに淹れなおしてまいります」


 仕方なく私はいったん下がった。今お嬢様は荒れに荒れている。なぜかって、それは狙っていた第三皇子が愛らしい子爵令嬢にとられそうになっているからだ。


 いくら、美少女だからといって、あの性格はいただけません。どうしても爵位の欲しい豪商にでも嫁いだらどうですかね。高望みなぞせずに。

 その方がお似合いですし、絶対に幸せになれると思います。


 それに、前々から言おうと思っていたが、私の名前はセバスティアンではない、絶対に。



 *****


 久しぶりのどぶ臭い貧民街。俺は安物のトラウザーズにシャツに黒いベスト姿でドブ……基いリーベの街に足を踏み入れた。

 いいねえ、気が休まる。

 行きつけの酒場に足を踏み入れた。


「よ!ノア、久しぶりじゃねえか」

「オリバー生きてたか。商売の方はどうだ?」


 俺は酒場のカウンターに腰掛ける。店の親父はウォッカを注いだグラスを出す。それを一気に飲み干す。


「お前、取りあえず一杯がウォッカとかおかしいだろう」


 久しぶりに会った友人はドン引きだ。


「ふっ、ストレスで死にそうだ」


「全然、そんな風には見えねえが。むしろ生き生きしてるというか・・・・。そういや、お前、いい金づる見つけったって噂聞いたんだが?」


「金づるねぇ、そんなもんあったら知りたいよ」


 俺が遠い目をして答えると、


「確かにな、金づるあったらこんなドブみたいな町に足踏み入れねえよな」


 オリバーが荒んだ笑いを返す。


「……で、お前の方はどうなんだ?」

「おっ!お前が客になるか?」


 オリバーがにやりと笑う。濃茶の目のが悪そうだ。こいつの商売は情報屋。腕はいいが残念ながら飲んだくれ。俺も酒ごときで、酔えれば今頃飲んだくれに、なれてたのにな。まあ、俺もこいつも性根が腐っているから、そういう意味では同士だな。


「テッドの店で、盗品売買しているのは知っているだろう?」

「ああ、あのじじぃもしぶといな」


 テッドは毎回毎回憲兵の手を免れ汚い商売を続けている。

 

ほんと、大貴族のバックでもいるんですかね?


 俺は二杯目のウォッカに手を出す。


「今度は贋作に手を出しやがった」

「ほう、詳しく話を聞かせてくれないか?」

「金三枚」

「ボリ過ぎだな」


 結局、銀貨2枚で手を打った。俺は早速、命の恩人に、借りを返そうと貧民街を抜けた。




 *****




「お嬢様。どうなさったのですか?ダンスの練習中に」


 私は邸の長い廊下を速足で歩いた。お嬢様は所詮貴族のご令嬢、本気で走っても遅くて笑ってしまいます。


「うるさいわね!セバスティアン、文字も読めないあなたに何がわかって!」


 いきなりの暴言ですよ。このお屋敷に来てから、私も文字くらい覚えましたよ?


「しかし、お嬢様ダンスは大切ですよ。第三皇子に気に入られたいのではないのですか?」


 というとお嬢様は真っ赤になった。


「は?何をいっているのセバスティアン。殿下は私に夢中よ」


 大嘘である。殿下のあのご様子では、気持ちは愛らしい子爵令嬢にもっていかれている。


「ならば、もっと夢中になっていただいたらどうでしょうか?ダンスのお上手なお嬢様に殿下から二度三度お誘いがくるやもしれません」


 口から出まかせだ。しかし、お嬢様は大人しくなった。


「そっ、そうねえ。今のままで、私は美しいし、優雅だし、十分だけれども……まあ、今回だけは、戻ってあげてよくってよ。

 でも何なのかしら、あのダンス教師!子爵家のくせにねちねちうるさくて本当に腹が立つわ。今度お父様に言って首にして貰いましょう」


 お嬢様は、そうおっしゃりながら地団太を踏んだ。その後、私は愚痴をききながら、お嬢様をダンス教師に引き渡した。

 やれやれ、恩人様に恩を返すのも大変です。


 なぜ、旦那様は私をお嬢様の従者に選んだのでしょう?








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