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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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問題は山積みだったりするが、なんとかなるだろうと高を括る

「メルヘッシェン・フォーギース・バーナマム、ジェルメノム帝国の元皇帝は依然行方不明であります。」

 俺の帰還祝いの翌日、俺はヘルザースの執務室にいた。

「そうか。」

 執務椅子に座るヘルザース、そのヘルザースに対面して、俺は応接セットのソファーに座っていた。

 俺は仮面を着けた国王の姿だ。

 完全に分解した。

 殺したことになるのだろう。

 約束を守れなかった。

 たとえ、メルヘッシェン・フォーギース・バーナマムを再構築したとしても、その精神体は戻らなかっただろう。

「深海の耳、憶えているか?」

「はい。」

 ヘルザースの背後には窓がある。その窓の向こう側へと視線を移す。

「その‘深海の耳’の長、キドラ・センタルも魔人に操られていた。」

 俺の言葉にヘルザースが頷き、続きを促す。

「精霊による洗脳魔法じゃない。精霊による心霊魔法だ。」

 ヘルザースの顔が僅かに歪む。

 心霊魔法とは俺が得意としている魔法だ。

 マイクロマシンを脳に侵入させて、その思考を術者の思った方向へと誘導するのが、この世界で言うところの洗脳魔法だ。緩くかければ、催眠術と違いはない。

 それとは違ってマイクロマシンによって、被術者の電気信号を操り、被術者の意志とは関係なく操るのが心霊魔法と分類される。

 洗脳魔法は気付かない内に思考を誘導されるが、心霊魔法は被術者が意志を持った状態で、無理矢理、操作される。

 洗脳魔法は、自律的な魔法のため、被術者が術者の思惑から外れて行動する可能性があるが、心霊魔法の方はそのような心配がない。ただ、術者に、より強力な演算能力と莫大な霊子量が要求される。

「ジェルメノム帝国帝都の地下には、魔人培養の地下遺跡がございましたが、それも関係しておるのでしょうか?」

 過去のロストテクノロジー、昔、イデアがいたセクションだ。

「ああ、多分、間違いないだろう、その地下遺跡には精霊演算器があったんじゃないか?」

 精霊演算器とは量子コンピューターのことだ。その量子コンピューターに直列同調することで、プロトタイプゼロは演算能力を拡張していたはずだ。

「ございました。」

 ヘルザースの言葉に頷く。

「接収したんだろうな?」

「勿論。」

「イデアの見解は?」

 ヘルザースが頷き、一拍置く。

「元ハルディレン王国にあった精霊演算器よりも古い型の物だそうです。」

「他には?」

 ヘルザースが首を傾げる。

「特には。」

「…そうか。」

「何か懸案事項がございましたか?」

 プロトタイプゼロのマテリアルボディは俺と同じで、消滅したんだろう。では、その精神体と霊子体は何処に行った?

『恐らく、マサトの世界だろう。』

 そうだよな。そう考えるのが自然だ。

『確実とは言えんが、まず、間違いないだろう。』

 わかってる。

『そうだ。マサトの世界に、奴はいると考えて行動すべきだ。』

「陛下がご報告して下さった魔人は行方が知れないままでございますが、何かお心当たりでも?」

 ヘルザースの言葉に俺は頷く。

「この世界じゃなく、俺と一緒で、別の世界に飛ばされたんだろう。ただ、接収した精霊演算器な…」

「はい。」

 奴のマテリアルボディは消滅している。なら、奴がこの世界に戻って来るとしたら量子コンピューターが器になる。

「分解しろ。調査の必要はない。奴がコッチの世界に戻って来やがったら厄介だ。」

 俺の言葉にヘルザースが素直に頷く。

「承知しました。早速手配いたします。」

 俺の目の前で「失礼いたします。」と一言置いて、ヘルザースが通信機の回線を開き、精霊演算器を修復不可能な状態にまで分解しろと命じる。

 通信機を閉じてヘルザースが俺に向き直る。

「それでは、当面の問題は解決でございますな?」

 ヘルザースの言葉に俺は口角を上げる。

「そうじゃねぇだろ?隠すなよ。」

 ヘルザースが五一(ぐいち)に眉を顰める。

「戦後処理で食糧問題が浮上したろ?」

 ヘルザースが眉を顰めたまま、瞼を閉じ、大きな溜息を吐く。

「頭の痛い問題でございます。ジェルメノム帝国は、戦争特化の国。今までは侵略先から物資を接収して国民に食わせておったのです。奴隷は数十万人、国民は属国を含めますと一千万人は下りますまい。」

「軍需物資の備蓄は?」

「もって、あと一週間か十日と言ったところですな。」

 ヘルザースが右手で蟀谷を揉みしだく。

「属国には帝国解体解放令を出しましたが国家運営には我らの手が必要な状態でございます。国民の健康状態は悪く、精霊薬の増産が間に合わぬ状況、食料不足に経済復興と、問題は山積みでございます。」

「こっちは損害出さずに勝ったのにな?」

 ヘルザースの眦が上がる。

「損害を出さずに?」

 あれ?口調も若干刺々しい。

「出てないだろ?」

 ヘルザースが勢い良く立ち上がる。

「何を仰っておられるのですか!建国記念セレモニーの大取であった!アヌヤ陛下の資格試練が延期されておるのですぞ!国民感情は王妃陛下のご快気祝いで盛り上がっておりますが!ひとえに!アヌヤ陛下の資格試練が観戦できるという喜びも相まってのことなのです!それを損害が出ていないなどと!某の前だから良かったものの!他の者の前では決して口にしてはなりませんぞ!」

 なんか訳の分からん理由で怒られた。

「お蔭でジェルメノム帝国に対する国民感情は最悪、元ジェルメノム帝国に援助の必要は無いとの声がそこかしこで上がっておるのです。」

 ヘルザースが音を立てて座る。

 そんなこと言ったってなぁ。この国の人間、俺の理解の範疇を超えてるわ。

「陛下、お口をそのように曲げてはなりません。そのような口になってしまいますぞ。」

 なんか、爺ちゃんに怒られてるみたいだ。

「それと、あの、黒い閃光、あの光が発生した影響で津波被害にあっている元連邦国家もございます。また魔人たちからの話ですと、今後、五年間は大規模な気象と海流の調整が必要とのことです。」

 どっちかというと、そっちの方が問題じゃねぇか。

「人的被害は?」

 俺の言葉を受けてヘルザースが首を振る。

「そうか、なら、そっちの方は魔人たちに頑張ってもらうしかないか…まあ、国民感情はともかく、一週間か…難しいな…でも、それだけあればなんとかできるかもしれねぇな。」

 再び、ヘルザースが立ち上がる。天板に両手をついて前のめりだ。

「なんとかできるのですか?」

 俺はわざと難しい顔をつくる。

「あんまり期待するなよ?なんとかできるかもしれないっていう仮の話だからな?」

 それでもヘルザースは笑みをつくりながら椅子に座る。

「いや、可能性があるというだけでも十分でございます。」

「そのためには、お前らが開発した霊子同調の魔導具、アレが必要だ。」

 ヘルザースの眉が動く。

「霊子同調回路ですな?」

「そうだ。恐らく、国民全員の霊子を同調させる必要がある。」

 ヘルザースが背凭れに凭れ掛かる。

「そのように大量の霊子が…」

 驚くヘルザースに、俺は、当然のように頷く。

「こっちでの準備ができるまでに、俺は段取りを組んでおく。優先させるのは霊子同調回路と精霊薬の増産だ。難民受け入れとジェルメノム帝国の復興支援は後回しにしても構わん。」

 ヘルザースが背筋を伸ばし、頭を下げる。

「御意。」

 その一言だけだった。

「それと、ブローニュの方はどうだ?」

 先日の帰還祝い、その折にもブローニュは姿を見せていなかった。

 俺の問い掛けにヘルザースが片眉を上げる。

「あの娘は、アヌヤ陛下の試練に向けて、修練に励んでおります。」

 俺は溜息を吐く。

「行方不明だってのに、后になるつもりなんだな。」

「はい。本人は至ってそのつもりでございます。陛下がご存命であらせられるのは、王妃陛下がお元気なので周知の事実でございますからな。」

 天井を見上げて、ブローニュにも会いに行くかとボンヤリと考える。

「あの娘は、試練を超えるまで陛下に会うつもりがないようで。」

 ヘルザースの言葉に視線を戻す。俺の視線を受けてヘルザースが再び口を開いた。

「先日の陛下のご帰還祝い、その折にも出席するように申したのですが、本人が、まだ、試練を超えていないことを理由に頑なに固辞いたしましてな。」

 律儀だねぇ。そこまで拘らなきゃいけないもんかね?

「やはり、女同士の何がしかがあるのでしょうな。妻にも無理に連れて行くな、今後のことを考えれば、その辺りの筋は通すべきだと、某が説教され申した。」

 なるほど、女同士の付き合いを考えれば、その辺はケジメが必要になるのか。

 俺はブローニュに会っておこうかと思ったが、まあ、変に拗らせる訳にもいかねえからな。アイツに会うのは、うん、諦めよう。


「帰って来るんし…」

 憮然とした顔つきで命令されちゃったよ。

「わかってるよ。ちゃんと帰って来る。」

 安寧城の地下深く、サクヤの頭を撫でてから、中央コントロール室の保存カプセルに横たわる。

 周りを家族に取り囲まれて、なんだか葬式みてぇだな、と、思う。

「葬式みてぇだな。」

 そのまま口に出してた。

 突如として全員の表情が曇る。

 トンナは泣きそうな顔になるし、アヌヤとヒャクヤの眦が吊り上がり、コルナとテルナドは呆れ顔だ。

 トロヤリが苦笑いでサクヤが保存カプセルの外縁を叩く。

「やれやれ、お前はどうして、そう、余計なことを言うのかねぇ。」

 オルラが溜息交じりで呟き、「まったくじゃ。主人にも困ったものよ。」とロデムスが続く。

「まあ、精々、派手な国葬をしてあげるよ。でも、お前は無事に戻っておいでよ?」

 オルラが笑いながら俺を送り出す。

「ホントに戻って来てよ?」

 トンナは急に不安になったのか本当に泣きそうだ。

「まあ、戻って来ないなら、あたしがソッチに行ってやんよ。」

 アヌヤは腕を組んで、肩を怒らせてる。

「そうなの。向こうの世界も見てみたいの。」

 ヒャクヤは気にも留めていないように見える。

「まあ、旦那様なら向こうの世界でも無茶苦茶にするだろう。」

 コルナは俺のことを何かと勘違いしてるんじゃねぇか?

「とりあえず、ちょっくら行ってくるヨ。」

 俺はそう言って、保存カプセルのアルミナガラスを閉じた。

 部屋全体に貼られた霊子結晶が蒼白く輝き、量子コンピューターが、そのレーザーを目まぐるしく稼働させる。

 新神浄土を稼働させる霊子と俺の六十四万人分の霊子が同調し、俺をマサトの世界へと送り出すエネルギーとなる。

 俺は、再び、現代日本に向かう。そして、近々、俺の国葬が新神浄土にて執り行わるはずだ。

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