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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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父として、なんとかせねばなるまい

「父さん!!」

 泣きじゃくったサクヤが俺の胸に飛び込んで来る。

 受け止め、抱締める。

 サクヤがこんなに泣いているのを見るのはいつ以来だろうか。

 サクヤ…

「も、もう!死んじゃ…死んじゃっ…」

 言葉になっていない。

「死んでないよ。」

 サクヤが俺の胸に顔を埋める。

 しゃくりあげる声だけが響き渡る。

 泣き止んだ後もサクヤの嗚咽が止まらない。

「おどぉおざ…ぐぁいだぐ…ぐぁああざああああがああ、いんぐぅあしィィ。」

 喋りだして、再び、泣き始める。お蔭で、何を言ってるのかサッパリわからん。

 無意識領域で聞き取れないということは、サクヤ自身が混乱しているということだ。だから、俺は、ゆっくりとサクヤの頭を撫でる。

 嗚咽になったサクヤを強めに抱締める。

 落ち着いたか?

 俺の言葉にサクヤが顔を伏せたまま頷く。

 じゃあ、サクヤ、教えてくれ、母さんたちは大丈夫か?

 サクヤが俺の胸に顔を埋めたまま頭を振る。

 …そうか…

 勢いよくサクヤが顔を上げる。

「父さんがいなくなった途端に寝ちゃったんしっ!」

 サクヤの眉が反り返る。

「起こしても!起こしても!起きんしっ!」

 怒ったような顔から泣きそうな顔に変わる。

 そうか。

「どうしてなんしか!?どうして父さんは消えたんし!?どうして母さんたちは起きないんし?!」

 懇願のような詰問。

 俺はサクヤを抱いたまま、その場に座り、サクヤを膝の上に座らせる。

 あの戦争で、物凄く大きな力が発生したんだ。

「ちから…」

 そう、この星だけじゃない、月も太陽も壊すぐらいの力だ。

「…」

 父さんはその力を星の外に撃ち出すために、その力に触れた。

「あの黒い真直ぐな光んしか?」

 俺はその光を見ていない。でも、恐らくは、そうなんだろうと、俺はサクヤの目を見ながら頷く。

 あの力に引っ張られて、父さんは、マサト、今のこの姿の父さんの世界、マサトの世界にまで飛んだんだ。

「帰ってこれんし?」

 俺は曖昧な笑みを見せる。

 わからないけど、多分、帰ってこれる。

 サクヤの顔が緩む。

 母さんたちが眠ったままなのは、多分、父さんが別の世界にいるからだと思う。

 サクヤが頷く。

 サクヤ。

「うん。」

 お前が。

 父さんが帰って来れるかどうかの鍵は、お前が握ってる。

 サクヤの目に力が漲る。

 お前が、強く、父さんのことを考えたから。父さんの精神体と赤い糸で繋がってるお前が、強く、父さんのことを考えたから、父さんは此処まで来れたんだと思う。

 サクヤが頷く。

 此処には他の父さんたちがいない。だから、一度、向こうに戻って、どうやったら、此処に、元の父さんの体に戻れるのかを話し合わなきゃならない。

 サクヤの唇が歪む。

 そんなサクヤの頭を優しく撫でる。

 大丈夫。父さんのことを強く考えてくれたら、父さんは、また、此処には戻って来れるから。

 唇を噛み締め、サクヤが頷く。

 いいかい?明日、もう一度、父さんのことを強く想ってくれ。そうしたら、どうすれば、父さんがコッチの世界に戻って来れるのか、サクヤに話すことができると思う。

 俺の言葉にサクヤが力強く頷いた。


「と、いうことがあったらしいんです。」

 トロヤリの言葉にヘルザースとサエドロの二人が頬を緩めて背凭れに体を預ける。

 トロヤリは利口だ。

 マサトの話を、若干、脚色している。

 マサトがサクヤに話した、他の父さんたちと話をしなければならない。その言葉を伏せるために、一旦、向こうの世界に戻って術式を考えると言い換えていた。

 内容はともかく、ヘルザース達にとっては、待ちの姿勢となる。

「まあ、崩御なさったとは考えてはおりませんでしたが、まさか、別の世界に飛ばされていたとは…」

 顎に手をやり、ヘルザースが唸り声のように呟く。

「まったくです。陛下にまつわるお話は、全てが全て、突飛なことが多くて此方の考えが追い付きませぬ。」

 サエドロの言葉にヘルザースが頷く。

「その通りだが、陛下が戻って来ると仰っているのだ、まず、間違いなくなんとかなさるだろう。」

 トロヤリがニコリと笑い、肩を少しばかり竦めてお道化るように話し出す。

「そうです。父さんのことですから、きっと、近いうちに気軽に帰って来て、母さんたちを起こしますよ。」

 トロヤリの笑顔に呼応してヘルザースとサエドロが笑う。

「ですな。」

 ヘルザースが応え、サエドロは笑いながら頷いた。

「しかしながら、陛下がご無事で何よりでございました。」

 サエドロが体中の力を抜いて見上げる。

「まったくだ。信じておったが、まさか、まさか…」

 ヘルザースが項を擦りながら笑う。

「陛下が、無事お戻りになられるのですから、こちらの方もなんとかしておきたいところですね。」

 サエドロの言葉に、ヘルザースが緩んだ頬を引き締める。

「左様だな。陛下がお救いになられた命、粗末に扱ったとなれば、陛下も気落ちなさるであろう。」

 トロヤリが二人の顔を交互に見ながら、「ジェルメノム帝国の戦後処理ですか?」と、問い掛ける。

 その言葉に二人が驚きの表情を浮かべる。

「まったく、殿下にも驚かされることが多くて、ヘルザースめは困ってしまいますな。」

 笑いながらヘルザースが応える。

「そうなんですか?」

「左様でございますとも。もう、学校に通われるお年でしょうが、戦後処理などという言葉は、六歳の殿下がお使いになられる言葉ではありませぬ。中々に将来が楽しみになりますな。」

 トロヤリを目の前にするとヘルザースの頬は緩むことが多い。そんなヘルザースにトロヤリが照れたように笑い「まあ、父さんの子ですから。」と応え、更に言葉を続ける。

「やはり、食料の問題ですか?」

 ヘルザースとサエドロが顔を見合わせ、ヘルザースが真剣な眼差しでサエドロに向かって頷く。その合図を受けて、サエドロも真剣な表情に戻り、トロヤリに向き直る。

「左様でございます。ジェルメノム帝国は元から国民に対してあまり保護的、つまり国民の生活をあまり考えずに(まつりごと)をしておったようなのです。」

「戦争に主眼を置いて、国民生活を逼迫させていたのですね?」

 子供にわかりやすく説明しようとするサエドロのために、話しやすく話せばよいという意味を込めてトロヤリがわざと難しい言葉を使って確認する。

 その意味を理解したことと、トロヤリの確認が間違いないという意味を合わせてサエドロが頷く。

「左様でございます。ですから、戦争を止めればさらに国民が逼迫するのです。」

「なるほど、戦争そのものがジェルメノム帝国の主産業であったということですか…」

 トロヤリが難しい顔で頷く。

「つまり、大量の国民が生活に逼迫し、且つ、敗戦したために物資の供給が止まってしまう。それは問題ですね。しかし、戦争用に備蓄されていた食料などは配給されるでしょうし、戦争に使用されていたエネルギーも国民に供給されるようになるでしょう?」

 トロヤリの理解力に驚きつつも、今度はヘルザースが口を開く。

「左様です。ですが、問題は戦争用に購入されていた奴隷の人数が多いことなのです。」

 トロヤリが背凭れに体を預けながら顔を上げる。

「戦争用の奴隷…兵器化予定の奴隷ですね…そうか、兵器化予定の奴隷には食料の配分が計算されていないか…」

 ヘルザースが頷き、その首肯を確認してトロヤリが言葉を続ける。

「しかも、奴隷の需要が一気に落ちますね。奴隷産出国にとってはかなりの痛手だ。」

 トロヤリの言葉を受けて、驚きつつもサエドロが詳細を語る。

「はい。ジェルメノム帝国は、この二年、年間一万人近い奴隷を購入しておりましたから、各奴隷産出国にとってはかなりの痛手でしょう。」

 トロヤリが腕を組み、天井を見上げる。

「金額的にはトガナキノで背負い込むことのできる人数でしょうが、やはり、問題は食料ですね…それに、奴隷は年間計画で産出されているでしょうから、突然、売れなくなってしまうと処分の方向で検討されるでしょう。」

 ヘルザースとサエドロが同時に頷く。そう、トガナキノで金を錬成してしまえば、食料を購入することもできるし、奴隷を買い上げることもできる。できるが、問題が起こる。

「奴隷に対する食料を世界中から購入すれば、金のレートが崩れるでしょうし、そうなると世界規模のデフレスパイラルを招く恐れも出てきますね。」

 サエドロは、もう、驚きを隠さなくなっていた。六歳児の会話内容とは思えない。その表情を素直に出す。

 それに対してヘルザースは満足気であった。次期国王であるトロヤリの聡明さは優しさを含んでいる。そう感じ取ったからだ。

「結構でございます。殿下。」

 そんなヘルザースが、優しい表情を浮かべてトロヤリに話し掛ける。突然、口調を変えて呼び掛けられたトロヤリが、視線を天井から下ろしてヘルザースに向き直る。

「難しい問題であることを、よくご理解していただきました。後は某どもで無い知恵を振り絞って考えまするが殿下も良いお考えが浮かびましたら、是非とも某に仰ってくだされ。参考に致しますゆえ。」

 ヘルザースの言葉を受けてトロヤリが俯く。

「そうですね。父さんが戻ってくれば何か解決策を提示してくれるのでしょうが、僕に思い付くことと言えば、急場凌ぎぐらいです。」

 トロヤリのその言葉にヘルザースとサエドロが引っかかる。

「急場凌ぎ、ですと…?」

「はい。あの月の保存カプセル、あのカプセルは、たしか、一万基以上あったと記憶しています。あの保存カプセルをイデアに改良してもらって、一年間を凌ぐのです。」

 ヘルザースとサエドロの二人が驚きのあまり、口を半開きにして脱力する。

「成程…その手がございましたな。」

 サエドロが気の抜けた声で応える。

「でも、父さんの意向にはあまりそぐわないと思うのです。なんだか、人間を物のように扱っているようで、僕も、あまり気が進みません。」

 ヘルザースがニッコリと笑う。

「いえ、確かに陛下がお戻りになられましたら、別の方法でご解決なされるでしょうが、いつお戻りいただけるかはわからないのです。準備は進めておいた方が賢明でしょう。」

 サエドロが力強く頷く。

「左様です。一年間はあの保存カプセルにて眠らせて、一年経てば新たに購入した奴隷と入れ替える。その一年間で、食糧の増産を実施すれば…うん、中々に実効性のある案だと思います。」

 ヘルザースは、内心、舌を巻いていた。

 戦後処理の話をトロヤリに聞かせたのは教育の一環としてだった。

 次期国王として、政の難しさを少しでも理解させようと話したことだった。それが、わずかでも解決策の糸口を口にする。

 トロヤリは次代を担う王として相応しく育つであろうと思わせる、その資質を十分に備えているとヘルザースは確信した。

 難問は山積みだが、ヘルザースの心が満たされる。

 窓外に目を向ける。

 空を白い雲が走っている。

『陛下、殿下は、陛下の時代を継ぐに相応しいお方に育っておいででございますぞ。』

 ヘルザースが窓を眺めながら微笑んだ。

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