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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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サッパリわからん

『音声入力用のプラットフォームと音声認識エンジンが必要だな。』

 …なにそれ?

『コンピューターを声で操作するために必要なものだ。』

 ほう。

 で、それは何処にあるわけ?

『売ってると思うが…コーディング作業が無理か…』

 なんだよ、そのコーディング作業ってのは?

『プログラム言語を使ってソースコードを書くことだ。』

 サッパリわからん。

『だろうな。やはり、お前の嫁さんに頼んで、検索するしかないか。』

『それもそうだけどさ、マサト。』

 イチイハラ?どうした?

『やっぱり向こうに戻らない?』

 その話は終わったろ?戻らないって言ったろ?

『どうしてさ?向こうの世界に戻っても、精神体と霊子体で、また、こっちに戻ってくればいいじゃない?』

 どうして、お前は向こうの世界に(こだわ)る?お前も納得したんじゃないのか?

『マサトの方こそ、どうして、そんなにあっさりと向こうの世界のことをほっとけるんだよ?トンナちゃんのこととか気にならない訳?』

 …それは…

『イチイハラ、それはマサトにとっては、酷というものだ。』

 イズモリ?

『な、どうしてだよ?どうして、イズモリがマサトの味方をすんのさ?イズモリだってコルナやテルナドのことが気になるんじゃないの?』

 …

『気にはなる。』

『なら…』

『主幹人格はマサトだ。』

 …

『主幹人格であるマサトは、肉体の記憶に左右される。これはどうしようもない事実だ。トガリの肉体にあっては、こっちの世界のことを、ほとんど、思い出さなくなっていた。なら、こっちで、本来の肉体に戻ったんだ。向こうの世界のことを気に掛けろと言う方が無茶だ。』

 …

『でも、俺達は違うよね?』

 …カナデラ。

『そうだな。俺達には肉体を持っていた時の記憶がほとんどない…いや、再構成できないと言った方が正確か。だから、向こうの世界での繋がりに拘る。』

 わかった。

『マサト?』

 一度、そっちに行くよ。

 俺はそう、イズモリに告げると同時に、無意識領域の深い白の中に落ち込んで行った。

 首から上の感覚しかないが、それでも精神体は全身を構築している。しかし、動くことができない。俺は寝転んだまま、無意識領域で構築された。

 見えないベッドが稼働して、俺の上半身を起こす。

 全員が俺を痛々し気な表情で取り囲む。

 服は、航空機での最後の瞬間をトレースしたのか、スーツ姿だ。

「新鮮だな。お前のそんな恰好を見るのは。」

 そりゃそうだ。俺が好き好んでこんな服を着る訳ねぇだろ?

「一応、公務員だもんね。」

 一応って言うな。

 で?どうすればイイ?

 イズモリが眉を持ち上げ、眼鏡のブリッジを押し上げる。

「どうすればイイ?だと?」

 俺は全員を見回し、頷く。

 このままじゃ、お前たちは納得しない。そうなれば、お前たちは俺の頭の中で四六時中ギャーギャーと煩くするだろう?なら、俺とお前たちとの妥協点を探すしかない。

 イズモリが溜息を吐く。

「妥協点か…」

 どうした?

「俺達の間で、妥協点を探すという作業をするのは初めてだな。」

 …

 イズモリに言われて俺も気付く。確かにそうだ。

 今までは、方向性が同一だった。

 この場合だと、向こうの世界に行くか、コッチに留まるかの二択だ。俺達の間で選択するという行為はなかった。行動を決めれば、その方向に向かって動き出す。どのように動くか、その道程を選択することがあっても、方向性を選択するということはなかった。

「それだけ、マサトの主幹人格としての強度が増したということか、俺達との乖離(かいり)が始まっているかのどちらかだな…」

 その言葉に、全員が、イズモリへと視線を向ける。

「そ、それって、マサトと精神体の周波数が…」

 カナデラの言葉にイズモリが頷く。」

「周波数帯にズレが生じている…そう、考えるのが自然だろう。」

 全員が俺に注目する。

 俺は溜息を吐く。

 お前たちは、全員、向こうに戻りたいんだな。

 イズモリを除く、全員が頷く。

 イズモリ。

 俺の呼び掛けに、イズモリの視線に熱がこもる。

 お前はどうなんだ?戻りたくはないのか?

 イズモリが瞼を閉じ、再び開いた時、先程感じた熱はなかった。

「戻りたいか?と、問われれば戻りたいと答えるしかない。しかし、このまま戻ることは許されないだろう。」

 俺はイズモリを見詰めながら、その言葉の先を待った。

「このまま戻ったとしても、マサトが、納得、いや、心の底から戻りたいと思わずに戻っても俺達との乖離は止まらない。状態が問題ではない。俺達とマサトの心の問題なんだ。」

 イズモリを除く全員が俯く。

「マサト、提案だ。」

 提案?

「こっちの世界でベッドの上に寝転がっているだけでは何も進展しない。それよりも、向こうの世界で動ける体で色々試す方が、進展があると、俺は考えている。」

 進展?

 イズモリが頷く。

「そうだ。向こうの世界なら、人を使って実験できる。マイクロマシンを使用しないで、血腫を取り除く実験もできる。」

 全員が顔を歪めていたと思う。

 俺は、一瞬、イズモリが何を言っているのか理解できなかった。

 向こうの世界で…人体、人体実験をするってのか…?

 イズモリが力強く頷く。

 信じられないモノを見た。

 俺の言葉に、さも当たり前のように、すんなりと頷く、眼鏡を掛けた俺がいた。

 俺と同じ顔をした、別の生き物が目の前にいた。

「向こうの世界でなら問題はあるまい?マイクロマシンを使って、元通りに再構築できるんだ。記憶を改竄すれば、実験されていたことも事実として残らん。」

 いや、そういう問題じゃないだろ?なに言ってんだよ、お前…

「人を殺す訳じゃない。ヘルザースとの約束も守っている。何が問題だ?」

 そんな理屈の話をしてんじゃない!

「じゃあ、何が問題なんだ?」

 イズモリ!今のお前の考え方は!今のお前はイズモリじゃない!

 イズモリが目を眇めて、首を傾げる。

 何森宗太!しっかりしろよ!今のお前の考え方は何森源也の考え方!何森源也の発想だ!!

 俺の言葉にイズモリが目を見開く。

 イズモリ自身も気付いていなかったのだ。それ程に自然な発想だったということか?

 イズモリが自分の右手で、その口元を覆い、首を傾げる。

「そうか…何森源也の発想か…」

 イズモリが静かに、そう、呟いた。

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