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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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こっちの世界は生きるだけでも大変だ、いや、チートじゃないから大変だ

 聡里がいる間に来客が二組あった。

 一組は、俺と沖縄行きの飛行機に乗っていた鹿野守(かのもり)補佐と勤務署の同僚だ。

 俺が暗い顔をしていると鹿野守補佐が辛そうな表情を浮かべるので、できるだけ陽気に応対した。

 あまり気に病まれるとコッチの方が気詰まりだ。

 見舞いに来てくれた同僚たちは、同じ消防車に乗る隊員と、勤務日が同じ、別の消防隊と救急隊だ。俺が明るく応対したので、同僚たちは、終始、明るかった。

 咲耶が居たのも大きかった。

 咲耶のお蔭で暗くなりがちな会話の一呼吸が明るく乗り切れた。

 その咲耶が、電池が切れたように、俺の枕元で眠り、もう一組が見舞いに来たので、鹿野守補佐たちは病室を出て行った。

 この後から来た一組が問題と言うか鬱陶しい。

 消防局の人事課の人間だ。

 開口一番は礼儀正しいが、同じ職場の人間に死刑宣告を持って来るのだから、まあ、コイツらも辛いだろう。

「奥様には同席をお願いして、お忙しい中、申し訳ありません。」

「いえ、どうぞ。」

 聡里が二人に椅子を勧めるが、二人ともに軽く会釈して断りを入れる。

 そんな二人から距離を取るようにして聡里がベッドを回り込む。窓を背中に咲耶を抱き上げる。

 二人とも、俺が視線で追えるように立ったままなのだろう。

 若い課長と係長だ。

 俺よりも上の階級。

 見た目でも現場経験は少なそうだ。まあ、本局勤めの人間に、特に人事などの庶務、総務関係の人間は、あまり、現場には出されない。

 市会や他部局の対応で専門性と人脈作りが主な仕事になってくるからだ。

 そんな連中が現場で煤まみれになるなんて、想像できない。

「更科主任、率直に申しますと、今回のお怪我は公務災害に該当しない可能性があります。」

 聡里が即座に反応する。

「な、何故です?主人は消防に言われて、沖縄サミットに向かったんですよ?出張扱いなのに!おかしいじゃないですか!」

 そう、普通の外傷ならばすんなりと公務災害となる。

 ただ、今回は、脳底。

 頭部のほぼ中心部にできた脳血腫が原因だ。

 外部圧力によって脳底に血腫ができる可能性は否定できないが、事故前から脳底に脈瘤があった可能性も否定できない。

「まあ、裁判になっても勝てるだろう…」

 係長の男が視線を聡里から俺へと向ける。

「なさいますか?裁判。」

「ああ、俺が原告兼弁護士となって裁判するよ。」

「え?」

 課長級の男が目を剥く。

「こんな体じゃ現場復帰は難しいだろう、だったら守るもんは家族だけだからな、金を分捕るためにも、プライバシー保護も何も無しで、SNSにバンバン上げて、寝たきりの状態で裁判に出廷してやるよ。」

 係長が頷く。

「まあ、結論をそんなに急がなくても良いでしょう。可能性が低いというだけの話で、実際、どのように転ぶかは、まだ、ハッキリとしておりませんので。」

「医者の診断書しだいだろ。」

「そうですね。」

 課長の男が頷く。

「診断書によっては、公務災害認定とならないでしょうが、その間は、こちらの個室で過ごして頂くことになります。当然、その費用は市の方で負担します。」

 俺は瞼をゆっくりと閉じて、了承の意を伝える。

「それと、先程、話しておられましたが、復職についてです。」

「雇い続けてくれるなら、お願いしたいな。」

 係長が何度も頷く。

「では、配置替えとなりますよ?」

「当然だな。この体がいくら回復しても現場はもう無理だろう。」

 元通りに戻っても人事記録に載るから無理だ。

「では、復職の意志はあり、しかし、公務災害と認定されない場合は裁判を起こすということでイイですね?」

「そうだ。裁判を起こした場合も、俺は消防を辞めない。家族がいるからな。」

「そうですね。そうなさった方がイイでしょう。」

 係長が課長に目配せする。

「それでは、お疲れのところ、お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。」

 二人が同時に頭を下げる。

「いや、コッチの方こそ、なんのお構いもできなくて申し訳ない。」

 俺の言葉に二人が口元を緩める。

 二人が出て行った後、聡里が咲耶を抱締めながら怒り出す。

「なんなの!あの二人!正人さんがこんな状態なのに!」

「そう言うな。あいつらも仕事だ。俺が此処にいるだけで、局の予算、税金が使われてるんだ。切れるなら早目に切りたいってのが局としての本音だろう。」

「余計に酷いじゃない!」

「金の話だ。シビアになるよ。」

「もう!」

 俺の話じゃ、聡里も納得しない。

 向こうの世界でもそうだったけど、俺の話ってそんなに説得力ねえのかな?

『法令の知識が必要になったろ?』

 ああ、そうだな。

「聡里、悪いけど、パソコンかスマホ、持って来てくれるか?」

「え?」

 突然の話題変更に聡里が俺の言葉を聞き逃す。

「スマホ、俺のスマホ、壊れてなかった?」

「あ、ああ、スマホならここにあるわよ。」

 引き出しを開ける音。

「どうするの?見えないでしょ?」

 そうか見えないな。

「そうだな、首も動かせないんだから見えないな。」

『うん、ノートパソコンも必要になるな。』

 そ、そうなのか?

「悪いけど、家からノートパソコンも持って来てくれるか?」

「パソコン~?」

 嫌そうな声、隠す気も無いな。

「うん、頼むよ。」

「わかった、じゃ、スマホは、とりあえず、ここに置いとく?」

 重い物が木と軽くぶつかる音。

「ああ、置いといてくれ。」

「盗まれないかな?」

「盗まれるなら棚に仕舞ってても盗まれるよ。目立つところにある方が盗まれても気付く。」

「あ、そうか。じゃあ、スマホは持って帰っとく?」

 それは困る。出してくれって頼んだのに、どうして持って帰る?

「いや、置いといてくれ、どうすれば使えるようになるか考えるから。」

「じゃあ、スマホ、ラジオにしとこうか?」

「ああ、いや、充電器が先だな。」

「そっか、ちょっと待って。」

 引き出しじゃなく、ロッカーを開ける音。

 ああ、そう言えば、沖縄に行くのに用意してたっけか。

「あった、じゃあ、充電しとくね。」

「頼む。」

 こうして、徐々に生活必需品が多くなっていくんだろうな。

『長期入院となると仕方がない。』

 それは勘弁願いたいな。

 俺は心の底からそう願った。

 スマホからは俺の好きな曲が流れていた。

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