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魔狩りのトガリ  作者: 吉四六
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鰐を狩ってみよう!

 密生するシダ植物をかき分け、頭上から垂れ下がる蔦を避ける。当然ながら道などは見当たらない。

 俺は伸ばした気配、マイクロマシンで周囲の情報を拾っている。

 アーゾン川には届かないが、アーゾン川へと合流する川は多く流れている。その一本に俺達は向かっている。その川になら俺のマイクロマシンが届いている。

「へ、陛下、少しペースが速いです。」

 息を切らせながらカルザンが呼び掛けてくる。

 後ろを振り返るとドルアジが明らかに遅れてきている。

「ドルアジ、ジャングルは歩いたことがないのか?」

 汗に塗れた顔を上げる。息を整えながら「ハア、ハア、歩いたことの…ハア、ある奴の方が、ハア、ハア、少ねぇだろうが…」と途切れ途切れに答えた。

「そうか。」

 そう言って、俺は前を向き、しばし上を向いて考える。

「下半身だけでも茨木童子を装着させ…」

「ダメです。」

 カルザンのダメ出しだ。

「いいですか?酒呑童子ではない、茨木童子はブローニュさんのキャラクターとしての特色なんです。オリジナリティなんですよ?腕っぷしの強い女性が魔獣を叩き伏せることで人気が出るんです。でも、同じ装備をドルアジさんに渡したら、その効果が半減します。だから、絶対にダメです。」

 カルザン厳しイイ。

 そのカルザンが後ろを振り返り、ドルアジに声を掛ける。

「イイですよ!ドルアジさんの苦しそうな表情は!きっと、視聴者の心に響きます!その調子で頑張ってください!」

 ドルアジが情けない顔を見せる。に、しても、可愛い顔してカルザンも鬼だな。カメラマンとしてのプロ根性というより、テレビマンとしてのプロ根性だな。

 実際、カルザンは俺を追い抜き、前から撮影したり、横から撮影したりと、間違いなく俺達よりも歩いている。

 それでも弱音を一言も吐かずに俺達を撮影し続けている。皇帝陛下も変われば変わるもんだなぁ、と、思わず感慨にふけっていると、ブローニュが近づいて来る。

「どうした?どこか調子が悪いのか?」

 ブローニュが首を振る。

「ちゃうねん、汗かいたさかいな。あんたが喜ぶと思て来てん。」

 こいつの変態も筋金入りだ。殺さない自信が揺らいでくるよ。

「意味ねぇよ。消臭用の精霊をお前に纏わりつかせてるから臭いなんてしねえよ。」

「えっ?」

 ブローニュが驚く。

 臭いは小さな物質だ。その物質が鼻腔内の嗅上皮に溶け込み嗅細胞が感知するのだ。だから臭い物質を分解消去してしまえば臭いは発生しない。

 ブローニュが自分の脇を嗅ぐ。

「ホンマやわ臭いせえへん。」

 ブローニュがなんだか複雑な表情を見せる。

「なんか、喜んでエエんか、悲しんでエエんか、ちょっと複雑やわ。」

「どっちでも良いよ。とにかく、狩りには臭いが邪魔になるからな、無臭が良いんだ。」

 俺はブローニュ越しにドルアジの様子を見る。

 肩で息をしているが、追いついて、立ち止まっている。

「ドルアジ、ペースを落とすからな、ついて来いよ。」

「ああ。」

 鼻先から、顎先から汗を滴らせ、ドルアジが怒ったように返事する。うん。やっぱり根性はあるな。

 ペースを落として、残り六百メートルほどの行軍だ。直線距離にすれば大した数字ではないが、足元が整備されておらず、樹木が邪魔をし、勾配もある。そんな所を行軍するのだから、当然、時間は掛かる。しかもドルアジに合わせての行軍だから更に時間が掛かった。

 時間を掛けて到着したのは川だ。アーゾン川へと流れ込む細い川。

 その川辺に俺達はしゃがむ。

「いいか、この川には鰐が上って来てる。その鰐を狩るぞ。」

 俺の言葉にカルザンはワクワク顔で、ブローニュは喉を鳴らし、ドルアジは怒ったように眦を上げている。

「お、大物なら罠が良いんじゃねえのか?」

 ドルアジが(まっ)(とう)なことを言う。

「魔獣には、罠なんか通用しない。鰐ぐらい狩れなくてどうする。」

 俺の言葉にドルアジが舌打ちする。

 目の前には小さな砂地がある。その川辺で、俺は粒子化して保存していた鶏肉を再構築する。

 丸々一羽分の鶏肉だ。

「ほれ。」

 ブローニュに差し出す。

 鰐を獲る場合は、ドルアジが言ったように罠を仕掛けて、安全な陸地に運んでから絞めるのだが、魔獣相手ではそんなことができない。魔獣は鶏肉ではなく人を食うために生きているのだから。罠に必要な人肉なんて用意できない。

『量子情報体で再構築できるが…』

 毎回、用意すんのか?

『だな。』

 と、いうことで、独自の鰐漁をして、練習するしかない。

 差し出された鶏肉を蒼い顔でキョトンと見てるブローニュに「持てよ。」と鶏肉を押し出す。

 わかっている筈なのに、ブローニュは蒼い顔で首を傾げて、「ナンノコトデスカ?」って表情を作ってやがる。

「お前の前腕には装甲が付いてる。食われることはないから、これ持って川辺に下りろ。」

 ブローニュが無言で首を振る。

「大丈夫だよ。ビビるな。」

「いやや。そんなん絶対死ぬし!」

「死なねえよ。大きくても二メートルまでだ。いいから行ってこい。」

 俺はブローニュの腕を引っ張り、たたらを踏んだブローニュのケツを蹴り飛ばす。

「っだ!」

 叫びながら小さな砂地に落ちて、そのままの勢いで、二、三歩、川の中に入り込む。

「ひいいいいい!」

 ブローニュが慌てて砂地に駆け上がる。

「ほれ。」

 俺はブローニュの足元に鶏肉を放り投げる。

「お、鬼や…あんたは鬼や!」

「鬼で結構、いいからやれ。」

 もう面倒くせえなあ、とっととやれよ。

「カルザン、お前も下におりろ。」

 カルザンが喉を鳴らして砂地に跳び下りる。

「ブローニュ、お前の腕が食われてもカルザンを守れよ。それがお前の仕事だ。いいな。」

「お、鬼や、やっぱり鬼や…」

 ブローニュは水面から目を離せないでいた。既に鶏肉を、半分以上、水中に浸している。

 その鶏肉を握っているのはブローニュだ。いつ鰐が来てもいいように目が離せなくなっているのだ。

 アーゾン川に生息する鰐はクロカイマンだ。鰐は生きている限り大きくなるから最大で六メートルほどの大きさになるが、この川はアーゾン川に比べてかなり細い。大体、五メートルぐらいだ。この川幅ならそこまで大きな鰐はいないだろう。

「ひっ!」

 水面が激しく波立ち、ブローニュが悲壮な声を上げる。

 体長一.五メートルほどの鰐が鶏肉に食い付いた。

「ビビるな。その程度の鰐なら小型だ。鶏肉を放すなよ、逃げられるぞ。」

 俺はしゃがんだまま、溜息を吐いて指示を出す。

「ドルアジ。鞭で鰐を縛れ。」

「お、おう!」

 ドルアジが慌てて鞭を振るうが、鰐の前足だけしか縛れなかった。

「落ち着け。小型なんだから、全身を縛るんだ。」

「わ、わかった!」

「ひ!ひイイイイイッ!」

 鰐が鶏肉を食い千切ろうとしてローリングを始める。

「ドルアジ、縛り上げるイメージを強くしろ。鞭を硬く固めるイメージだ。」

「お、おう!」

 鞭が振るわれ、カルザンの横を回り込んで鰐の全身に巻き付く。きつく絞まり、硬く変質する。鞭の素材はドラゴニウムだ。霊子を通せば硬くなったり、柔らかくなったりする。ドルアジのイメージ力次第だ。

「よし、動きが止まったな。カルザン、頭を落とせ。」

「は、はい!」

 返事はいいが、剣を振りかぶった状態で止まってる。

「早くしろ。ブローニュとドルアジの体力が持たねえぞ。」

「はい!」

 返事をするが、剣を振り下ろせない。

 俺は、その場に膝をついて、姿勢を正し、右手を胸に当てる。

「川床におわす神々、鰐神が荒ぶる水神、穢すなかれ、荒らすなかれ。許したまえ、かしこみかしこみ申す。」

 右手を下す。

「川の神に許しを請うた。カルザン、止めを刺してやれ。いつまでも鰐を苦しませるな。」

「はい。」

 カルザンの目付きが変わる。同時にカルザンが剣を振り下ろした。

 鰐の首が刎ねられる。

 カルザンに渡した剣はオリハルコン製ではない。オリハルコンを使いこなそうとすれば霊子を使いこなせなければならない。オリハルコン製の剣は普通に剣として使えるが、切味を優先して、単分子ブレードをカルザンには渡した。

 鰐の首であろうがなんであろうがオリハルコン製の物以外なら一刀両断だ。

「ふうう。」

 カルザンが深い所から息を吐く。

 拙い。

 油断してた。

「二人とも上がれ!!」

 俺の声は間に合った。間に合ったが、二人の反応は遅れた。

 波飛沫を立てて、巨大な穴が突然現れる。空間の裂け目とも思える巨大な穴だ。穴の大きさに見合った巨大な牙が並び、その穴が、やはり突然、閉じられる。空気が圧縮されて牙と牙が打ち鳴らされた音はあくまでも凶悪だった。

 体長五メートルを超える鰐が、カルザンの仕留めた鰐に喰らい付いたのだ。

「!」

 ブローニュとカルザンはあまりのことに固まってしまった。

 鰐の口からはドルアジの鞭が伸びている。小型の鰐は、丸々呑み込まれた。

「ちっ!ドルアジ!鰐の気を逸らせ!」

「どうやって!!」

 ドルアジは小さな鰐に鞭を巻き付けたままだ。巨大鰐に引っ張られて足元がおぼつかない。転倒しないだけ、よく踏ん張ってる。

「鰐が振る頭と同じ方向に動け!力に逆らうな!」

「くっ!そんなこと言われたってよう!!」

 焼け石に水か。

「ブローニュ!貫け!」

 俺の叫び声で反射的に動いたのだろう。ブローニュが、巨大な鰐の頭部に側頭蹴りの要領で右足を当てる。

「フンッ!!」

 ブローニュの軸足が強烈な回転を生み、砂が爆発したように舞い上がる。

 巨大鰐の動きが止まる。

「カルザン!止めだ!!」

 カルザンが剣を振り上げる。

「川の神よ!許されよ!」

 カルザンが我流の言祝ぎを叫び、その剣を一気に振り下ろした。


 俺は、首が半分斬られた巨大な鰐を前にして、「おっかしいなぁ。」と頭を掻いた。

「なにが、おっかしいなぁや!あんた!言うたやんか!大きくても二メートルやて!」

 ブローニュが凄い剣幕で怒ってる。このへんはヘルザースと一緒だな。

「いや、この川幅だとこれだけの大きさを維持するのが難しいはずなんだよな。まあ、鰐を食ってたんだろうけど、それでもなぁ。」

 そう言いながら俺は細い川を眺める。細いとは言っても五メートルだ。しかし、それでもだ。

「五メートルの川幅に五メートル超えの鰐って、やっぱ、おかしいよな。」

「そうですね。かなり窮屈ですよね。」

 俺の呟きにカルザンが頷く。

「でも、いたもんは、いたんだから、それでいいじゃねえのか?それより、この鰐、どうやって捌くんだよ?」

「そうだな。肉に臭みが付いてもつまらんしな。とっとと捌くか。」

 俺は六年前から愛用していた小太刀を再構築する。

 あの頃はこの小太刀を再構築することはできなかったが、今ではできるようになっている。小太刀を構成するマイクロマシンがわかったからだ。

 その小太刀を鰐の首に突き入れ、皮を裂いていく。

 鰐革は最高級品だ丁寧に裂く。

 皮を裂いたら、解体である。

『慣れないな。パパッと分解したらどうだ。』

 動物の解体シーンの苦手なイズモリが苦情を訴えるがスルーだ。皆に経験させる必要があるからな。

「お前らも手伝え。」

 俺はカルザン達に指示を飛ばし、巨大な鰐を解体する。

 慣れないカルザン達の手作業だ。かなりの時間が掛かる。俺はマイクロマシンを鰐に侵入させて、血液を分解、肉の中に繁殖しようとする細菌を殺す。

 鰐の口を抉じ開け、下顎から舌を斬り取る。

「し、舌なんて食べるんですか?」

「そうだよ?美味(うめ)えんだぜ。」

 カルザンが頬を引き攣らせる。

「ホンマに逞しいわ。一〇歳の姿やさかい、余計にそう思えるわ。」

 ブローニュが、疲れた腰を伸ばしながら、誰にともなく呟く。

「まったくだ。どんなふうに育てられたらコイツみてぇになるのか教えてもらいてえぜ。」

 ドルアジがブローニュに応える。

 うん。ドルアジの言葉遣いが素になってきたな。いい傾向だ。

「お嬢、そっちの皮、こっちに切り込みを入れてから捲った方が良いぜ。」

「あ、そっか。」

 たわいない会話だが、やっとパーティーらしくなってきた。

 さて、本当の魔狩りになるには、まだまだ時間が掛かるが、緊急性の高い依頼だ。明日には魔獣を狩らないとな。

 そんなことを考えながら、俺は空を見上げた。夕焼けに赤く染まった空だ。

「ま、なんとかなるか。」

 気楽に俺は考えていた。


 大量の鰐肉は大雑把だった。うん、味が。大物にありがちなことだが、大きいということは、それだけ長い年月を生きているということだ。年寄りの肉を食うのだから、味が落ちるのは無理もない。

 飛行機の下で焚火をしながらの食事だ。

 肉に金串を刺して、炙るだけの簡単な料理、味付けは塩と胡椒で本当にシンプルだ。

 俺の横にはヤート式の焚火が焚いてある。

 穴を掘って、石組みで穴の側壁を固める。その穴の中で火を焚くのだ。穴を掘った時、その側壁に空気の通り道を別に掘るのがコツだ。そうしないと酸素が無くなって、火が大きくならない。

 そっちの焚火では鍋に鰐肉と野菜を放り込んで、スープを作ってある。

 焚火を囲んで金串を片手に全員が無言で肉を齧る。

 上を見上げれば満天の星空だが、侵食するジャングルの闇が俺達の存在を脅かす。

「カルザン、編集は戻ってからするのか?」

 肉を頬張りながらカルザンが頷く。喉を鳴らして肉を呑み込み、口を開く。

「そうですね、映像のチェックはしておこうと思いますが、編集自体は国に戻ってからにしようと思います。」

「に、しても、デカかったなぁ。」

 ドルアジが焚火を見詰めながら呟く。

「ホンマや。あたし、よう、あの鰐に蹴り入れられたわ。」

 ブローニュも焚火を見詰めながら呟く。

 二人とも他人に語っているようで、自分に語り掛けているようでもあった。

「大きさだけなら魔獣クラスですね。」

 カルザンだけは二人に語り掛けていることがハッキリとわかる。

「そうだな。大きさだけならな。」

 そう、大きいだけの生き物だった。

 魔獣は違う。

 魔獣は生き物であって、兵器でもある。

 触れることのできない魔獣もいる。

 マイクロマシンを使う魔獣だっている。

 多くの魔獣はマイクロマシン対策として、帯電能力を有している。電気ウナギのような帯電能力だ。アーゾン川には元から電気ウナギがいる。

『今回の魔獣も帯電能力を有している可能性は高いな。』

 俺もそう思う。

『魔導服の下に絶縁スーツを着込んだ方が良いだろう。』

 そうだな。

 二メートルから三メートルの魔獣か。

『情報が少ないな。』

 明日実物を見て、イデアにその映像を送れば詳細がわかるさ。

『うむ。』

「なあ、デシター。」

「うん?」

 ブローニュが鰐肉を差し出しながら俺に声を掛けてくる。

「違う味付けできへん?」

 俺は眉を顰める。

「醤油とソースぐらいしかねえぞ?」

 ブローニュが頷く。

「うん、かまへん。それでエエし、出してえな。」

 俺は小さな醤油入れを脇に置いた鞄から取り出して、ブローニュに渡してやる。

「なんで、荷物にして持って来たん?」

 たしかに荷物として持ってくる必要のない物だ。俺が粒子化して保存すれば手ぶらでどこにでも行ける。

「ドキュメンタリーだからですよ。」

 カルザンが割り込んでくる。

 そう、カルザンが粒子化して持って行くのはやめましょう。と、言ったのだ。

「なんでドキュメンタリーやったら荷物をそのまんまにするんよ。手ぶらにできるんやったら、その方がエエやん。」

 ブローニュの言葉にカルザンが溜息を吐く。

 さも「これだから素人は考えが浅いんですよねぇ。」とでも言いそうな表情だ。

「いいですか?ドキュメンタリーとは言っても、その映像効果を考えなければです。手軽な感じにしてしまうと視聴者は見てくれないんですよ?必要な物がパパッと出てきて、手ぶらで冒険に行くなんて、誰がそんな物を見て喜ぶんですか?苦労の末に目的地に到着し、苦労の末に魔獣を狩る。それが今後の‘今日は魔獣を狩りたい気分’の醍醐味なんじゃないですか。」

「そんなんおかしいわ!」

 カルザンの馬鹿にしたような物言いがカチンときたのだろう。ブローニュの語気が強い。カルザンもブローニュの言葉にカチンときたようだ。眉を強張らせている。

「な、何がおかしいんですか?」

「だってドキュメンタリーなんやろ?それやったら、できることはできるで、ちゃんとホンマのことを写したらエエねん。今までの‘今日は魔獣を狩りたい気分’やったら、いきなり魔獣を狩るとこから始まってたやん。」

「おかしくなんてないですよ。ドキュメンタリーとしての演出の一部なんですから!」

「演出が必要ってところが既にドキュメンタリーとちゃうって言うてんねや!」

「淡々と作業のように魔獣を狩ったって面白味も何もないんですよ!特に私たちのような素人が魔獣を狩るんですよ!今までの‘今日は魔獣を狩りたい気分’は人気があって、馬鹿みたいに強い王族が魔獣を狩ってたから視聴率があったんです!私たちのような素人がチートな陛下の能力で魔獣を狩ったって、誰も見てくれません!」

 うん。馬鹿みたいってのは、間違いだ。馬鹿そのものだからな。

「せやかて、魔獣狩りに必要な得物は、全部、デシター任せやんか!そんなこと言うんやったらカルザンはデシターの作った武器と(ちご)て普通の武器を使いィやぁ!」

「そんなの無理に決まってるでしょう!普通の武器で魔獣が狩れるって言うならブローニュさんが普通の武器で狩ってくださいよ!」

 ドルアジが俺の耳に囁く。

「仲良くなってきたみてぇじゃねえか。」

 俺はクスリと笑って頷く。

「でも、そろそろ止めた方が良いんじゃねえか?」

「そうだな。」

 俺は二人に声を掛ける。

「いい加減にしとけ。」

 二人が口を噤んで俺に視線を向ける。

「ドキュメンタリーじゃねえんだよ。」

 カルザンがショックを受けた顔で俺の顔を見詰め、ブローニュはしてやったりの顔でカルザンを見る。

「俺にとっちゃ、魔狩りのマニュアル映像だ。だから、今後、魔狩りになろうって奴の参考になればいいんだから、なるべく俺の能力は使わない。武器についちゃ、国から、ユニオンを通して有償貸与されるから俺が作っても問題ない。だから、ドキュメンタリーであって、この映像は魔狩り初心者ガイド映像ってことになる。」

 二人が肩を落とす。

「なんだか、はぐらかされたような感じですね。」

「ホンマや。屁理屈こねる詐欺師みたいや。」

 俺は口角を上げる。

「いいんだよ。結局はなんだって。納得できる理由があって納得できれば。」

「更にはぐらかされたような気がします。」

「ホンマや。なんかそれらしいこと言うて、まとめた感出してるけど、全然まとまってへんで。」

 ふう。

 オルラ、助けて。俺じゃやっぱりまとまんないわ。

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